No.21
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※現在プレイを休止しているものあります。
倉庫としておいています。
受け攻め性別不問/男女恋愛要素あり
R18と特殊設定のものはワンクッション置いています。
年齢制限は守ってください。よろしくお願いします。
倉庫としておいています。
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R18と特殊設定のものはワンクッション置いています。
年齢制限は守ってください。よろしくお願いします。
#特殊設定
#あむあず
「犬……」
「……犬……」
奇怪な部屋が喫茶店からの帰り道にあった。別段二人で帰ったというわけではなく、安室がついでに送っていきますよと言うので、梓はまあいいかと思って応じたのだ。安室は珍しく電車で移動するらしく、終電まで少し間がある帰り道で、二人であてもない話をしていたときに建物と建物の間にそれはあった。安室はこの辺一帯の建物を認識していて、ちょっと待ってください、こんな建物は確かなかったはずと、当然と踏み込む安室にちょっと不法侵入では、と梓が腕をつかんだ折にまるで吸い込まれるようにして、部屋に引き込まれたのだ。決して安室が招いたわけではないのだが、実際彼の油断なのでそうと言えばそうだ。反省は直にするとして、気づいたときにはそっけない謎の空間に二人して立っていたのだ。ひとつあるディスプレイのような画面に、「犬プレイをしたら出られます」と書いてあった。言うに事欠いて、犬プレイときた。
「犬プレイってなんですか……?」
「犬になりきるプレイですかね」
「どういう目的なんですか……?」
「人が犬になっているところを見たいという変態欲求ですかね……?」
「犯罪なのでは……?」
「まあ色々と法には触れていますね……」
さて、犬である。
きちんと首輪とリードが用意されていた。念のため、扉やらなんやら確認してみたがロックがかかっており、携帯は使えない。もう一台の携帯と無線もそうだ。はて、と安室は考え込んでみたが、少し面倒になった。
「じゃあ、梓さん、僕が犬をしますから飼い主ということで」
「ちょっと待って、どういうことですか、やるんですか、犬プレイ」
「さっさと終わらせましょう」
安室が仕事の顏になった。無駄にきりりとし、なおかつ、にこやかだ。
「梓さん、どうせなら首輪つけてくださいよ」
「うぇええええええ」
「嫌なんですか?」
「いやあ、まあ……はい……」
嫌と言えばかなり、嫌だ。
安室は何故か満面の笑顔だ。
あれ?断れない空気?と気づいて、梓は引きつった。だがまあ、彼女も順応が早いのである。
「わかりました、こうとなれば犬プレイでも猫プレイでもして、さっさと帰りましょう!大尉が待ってるし!」
「その意気です。さすが、梓さんです」
拍手喝采、実際は軽い拍手をして、おだててみる安室だった。
首輪を手に取って、梓は安室の首にかけた。
ベルトを止めるところで、忘れておいた理性が、ぴくりと動いたが、気づかないふりをして、留めた。
首輪をつけた安室と梓は対峙する。
安室の瞳の色がふと揺れて、それが証明みたいに安室は微笑んだ。
「ワンッ」
「え?えー?えー…」
あはは、と妙な笑いを梓は浮かべる。
まるで散歩に行こうというように安室がリードを咥えて持ってきた。
すっと安室が四つん這いになる。
梓は半歩下がった。
が、わんちゃんがしっぽを振ってお散歩を待っている。
「よ、よーしよし」
梓はその髪をなでた。
色だけ見るとゴールデンレトリーバーだ。
首輪の先のカンにリードをつける。
わん、と安室が鳴いた。
いや、犬が鳴いた。
ぐるぐると梓は浸食される気がした。
梓はリードを持った。
金色の毛皮を持つ犬は、ゆっくりと歩き始めた。
梓との散歩を楽しむように、時折ちらちらと梓の顔を見上げる。
かわいい。
もうよくわからなくなってきた。
尊厳とか、人権、とかそういうものを。
壊されているのは自分のような気がした。
人は犬になれるのか。
人を犬と思えるのか。
梓が止まったら、犬も足を止めた。
その前足で、梓の様子を窺うように梓の足を触った。
梓はしゃがみ込む。
わしゃわしゃと頭をなでる。
後頭部から背筋を撫でると尻尾は盛んに揺れた。
犬は、もっと、と欲しがるように前足を掻いて要求する。
犬は梓の顔を舐める。
くすぐったかった。
んぎゅ、と抱いて、一頻り撫でると、耳元で引く声がした。
「開いた」
梓は目を見開く。
安室は何故か、梓にキスをして、ゆっくりと立ち上がった。
上背のある、すらっとした男の人がそこに立っている。
「帰りましょう、梓さん」
梓はなんだかふわふわした頭で頷いた。
それから、外して、と強請られて梓は首輪とリードを外した。
安室は微笑む。
―――気づいたらいつもの帰り道だ。すべては、夢だったのかもしれない。嘘だったかもしれない。酔っぱらっているのかもしれない。酒を飲んでもいないが、コーヒーは飲んだから。いろんなことを聞きたかったが、言葉にはならなかった。取り留めのない話をして、二人は別れた。梓を待っていたのは、大尉で、梓にすり寄って甘えた。そのふわふわの毛並みを撫でながら、梓は今日の出来事をすべて忘れようと思った。
――数日後、梓の許に安室からの荷物が届く。中身を見ないようにしたが、気になった。封を開けると、首輪とリードが入っていた。梓は呆然と、それを眺めた。
犬って。
安室が嬉しそうに微笑んでいる気がした。
畳む