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No.29

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「安室さん、今日はお喋り禁止ですよ」梓はそう告げた。仕事で疲弊した男の声ががらが…

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#あむあず

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「安室さん、今日はお喋り禁止ですよ」

梓はそう告げた。仕事で疲弊した男の声ががらがらで、風邪には至ってないが今日はお店はマスターの貸しきりで、二人とも珍しく休日だ。折角なので休んでもらおうと出し抜けに梓は提案した。安室は、いえ、と言ったがその続きは喉を動かしただけで終わった。梓は小指を立てて促すと安室はおずおずと小指を絡ませた。約束ですよ、と言って梓が安室にキスをすると安室はまんざらでもない顔をしてにこっと笑う。呪いがキスで解けるなら、約束もキスで与えられるのだ。心を決めたのか、ベッドに行き、寝始めた。休日といっても安室の場合は完全にオフではなく、安室は知らないが梓は安室の携帯が別にあることを知っている。特に追求したりしない。ゆっくり眠れるように梓はそーっとパソコンに向かい、ヘッドホンをつけて、最近はまっている配信ドラマの続きを見ることにした。大尉はくるりと丸まってテーブルの下で寝ている。のんびりと飲み物を見ながら、梓は暫くドラマの世界に浸っていた。


ふっと、気配がした。安室が起きたようだがすでに傍にいた。わ、と梓が驚くものの安室は笑うだけだ。ヘッドホンを取ったが、安室は何も喋らない。そういえばお喋り禁止を約束したことを梓は思い出した。ドラマを見ていてからすぐ忘れてしまっていたが安室は律儀だ。いつもよく喋る雄弁な人だから、黙っていると不思議な感じがした。表情や仕草からしか伝わらないから、まじまじと改めて安室の顔立ちを見詰めるとやっぱり甘く整った顔立ちの男の人だった。各身体のパーツも整っていて、スタイルも良い。この平凡な部屋に居るのが不思議な気がした。梓は楽しくなって笑うと安室が首を傾げた。

「あ、違うの。ただ改めて、安室さんが部屋にいるのが不思議で」

不思議って、という風に眉が下がった。安室が梓を抱き締めた。言葉ではなく、行動で示したということだろう。何度かキスが降ってくる。饒舌な言葉をもつ男が言葉を取られると行動が饒舌になるのかもしれない。梓は安室の背中を軽く叩く。止めるつもりだったが、安室はにこりと笑った。覆い被さるように倒れてくる。床と安室の身体に挟まれて、梓は身じろぎした。重いですよ、と抗議すると安室は満足したように体重をずらしたようだった。少しほっとしたが、拘束は解けず、自分に寄生する大きな虫みたいに安室は張り付いて離れない。疲れてるのかもしれないと梓は思った。腕を少し動かして、安室の頭を撫でると安室が梓を覗き込んだ。瞳がぶつかる。無数の色に溢れた瞳が、柔らかく細められる。言葉を持たない安室は可愛いのかもしれない。安室は気が済んだように、梓を抱き込んだまま、また眠ってしまった。梓は身じろぎしたが、思いの外動けない。何かの技がかかっている気がする。結構迷惑だったが、たたき起こせばすぐ安室は起きるだろう。まあいいかと、梓は目を瞑った。安室の規則正しい寝息が聞こえる。リラックスしているのか、深い呼吸だった。梓はその鼻と唇を手で塞ぐ。

ゆっくりと、安室の瞼が開いた。寝起きと思えない透明で意思をもった眼差しが、梓を捉えた。梓は、額にキスをした。安室は何も言わなかった。梓は手を外した。呼吸を再開させた安室は、少し笑った。無性に甘ったるい、視線はゆっくりと外れて、梓を抱き締めなおすと安室は再び目を瞑った。梓は呼吸に合わせて微動する睫毛を見詰める。

約束ではなく、呪いだった。だがそれが、二人を阻害することがないのは明白だった。紡がれるはずだった一時の言葉は溢れて、真実みたいに崩れ去るとき、安室の第一声は何になるだろう。大尉が鳴いた、ただの寝言であった。

アナウンス
※現在こいくう以外のソシャゲのプレイは休止しています。その為作品はプレイ当時のものとなります。

受け攻め性別不問/男女恋愛要素あり
R18と特殊設定のものはワンクッション置いています。
年齢制限は守ってください。よろしくお願いします。