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No.7

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いっそう遠く輝いている星を眺める、マコト、船に乗らないかと言われた、どうしてと尋…

小説

#京園

小説

星々の話

いっそう遠く輝いている星を眺める、マコト、船に乗らないかと言われた、どうしてと尋ねたらお前は辛抱強く体力がある、漁師に向いていると大柄の男が言った、日焼けした肌で、酒を飲んだのか赤ら顔だ、乗らない、と彼は答えた、どうしてだ、地上にいる人間と戦い、一番つよくなるより、海と戦う方がずっと困難だ、と男は言った、それはそうかもしれない、海に勝てるかは分からない、巨大な果てのない相手だ、それはそうだろう、考えてみろ、と男は笑う。今、好きな女と離れてるんだろう、好きな女を置いていくお前は船乗りにぴったりだ、男はそう言って酒を飲んだ。彼はそうかもしれないと思った、彼は戦いを除けば物静かな男で、年相応のシャイさもあって控えめで謙虚な男だった、だから彼を恐れるものはいなかったが、彼が丁寧であればあるほど、強さの象徴として受け取られた。彼が彼女に強く恋をしているなんて、実際彼女も分かっていないのかもしれない。彼女は感覚で分かってるだけだ、彼は裏切らず、ひたむきに誠実に自分を好きなのだと。それは深層意識で気づいているだけだったから、彼女は言葉にしなかった、気づいてるのはそんなふたりをそばで見ている彼女のごく親しい人々だけだった。だから、こんな遠い地で彼が彼女に深く恋い焦がれているなんて、気づかれることはごく稀だった。そんなに好きならそばを離れるわけはない、と言われてしまえばそうだ、彼は薄情ではなく、むしろずっと愛情深かった。


スマートフォンでメールを打ちかけて、指は止まった。元気ですか、短いスカートなど履いてはいませんか。最近寒いので、体を大事にしてください。だって伝えたいことはこんなことではなかったから、彼は眉根を寄せた。彼女が夢中になるあの怪盗のように言葉を紡げていたら…………………


男は眠っていた。店員に目をやるといつものことだというように、肩を竦めた。彼は店を出て、宿に向かった。港沿いを歩いた。潮風を浴びた。故郷の海とはまた違った海だ。波の音だけは変わらない。猫がいて、魚を食べていたが彼を見て食べかけの魚を咥えて素早く去っていく。海鳥が鳴いていた。ゆっくりと彼は歩調を緩めた。

彼は不慣れな操作でスマートフォンで海の写真を撮った。彼女に送った。彼女の返信はすぐに来た。きれいね。彼が返信する前に彼女がメッセージをさらに送ってきた。
〈真さんの写真は?〉
彼は困った顔をした。
思ったままに返す。
〈自分の写真とは〉
〈自撮りして〉
〈自撮りとは〉
〈誰もいないの?〉
誰もいなかった。
自撮りとは。
彼女は丁寧に解説した。端末のカメラで自分を写すの。こんな感じで。ほら。そう、部屋着の彼女の写真が送られてきた。彼は顔を赤くした。
〈わかった?〉
彼は写真の彼女を見ている。
可愛らしい。
きれいだ。
美しい。
どれも彼女を賛美するには、違う気がした。生き生きとした瞳が彼を見ている。
電話がかかってきた。
「あ、はい?!」
「どうしたの、真さん。操作が難しい?それとも写真を撮るのはイヤ?」
「あ、いえ、そうではなくて」
「電話しても大丈夫だった?」
「それはもちろん」
「よかった。写真送ったら返事がなかったから………………かわいくないわよねこの部屋着」
「ええと、違うんです、つい見てました。園子さんの写真を」
「え?」
「あの、……………大事にします、この写真」
「そ、そう?それなら、いいけど……でも、もっとちゃんとおしゃれして撮るから!そっち大事にして!」
「どれも大事にします」
「…………………うん。大事にして」
「はい」
「…………えっと!だから、それで真さんの写真は?」
「ええと、あまり分からなくて」
「やっぱり誰もいない?」
「宿に行ったらご主人がいるかと」
「それじゃ、お願いして撮ってもらってよ、私も欲しいし………真さんの写真」
耳元で優しく落ちる声に彼は再び顔を赤くした。
「はい」
「そ、それじゃ、またね!」
「はい。………………あの、その」
「なぁに?」
「─────────好きです」
ぎゃっ!と悲鳴が聞こえた。
「どうしました?!」
「あっ?!えっ?!なんでもない!!!!なんでもないわよ!!!!」
「な、なら、いいんですが…………」
「私も真さんのこと、大好き!」
じゃーね!と逃げるように電話は切れた。暫く彼はポンコツになって、宿をずいぶん通りすぎる羽目になり、辺りはすっかり夜に包まれ、写真を撮ってもらうのをついぞ忘れた。

彼は写真を眺める。自分のために撮られた彼女を。画面を指の腹でなぞった。星を見ていた、自分に届くないはずのない星は、太陽でもあった。結局のところ彼は自分に自信のないただの18歳で、強さを追い求めているものの、肉体ほど頑強でない心で、自分が好きな女の子のそばにいていいのかと悩んだままだ。地上のすべてに打ち勝って、強くなって、しかし、それでもまだ足りないのだろう、自分に勝つには。


繰り返し繰り返し波の音が聞こえる、声をかけてきた男は朝方沖に出るのだろう。その空に星はあり、やがて太陽は姿を見せる。海とどう戦うのか、彼は考える。真面目に、ふざけていると取られかれない真剣さで。海は彼女の姿をしていた。彼女の姿はどこにでもあった。彼は恋する男だった、果てのない深さで。だから、一層彼はいつも揺れていた、波の上の船のように。彼も海だったし、そうではなかった。全部そうだった。
彼はまだ修行の途中だ。なんにでもなれた。強さがあった、弱さがあった。時代が違えば英雄だった、すべてが許せば伝説になるはずだ、彼だけが、ただ彼女を見ていた。






#京園

アナウンス
※現在プレイを休止しているものあります。
倉庫としておいています。

受け攻め性別不問/男女恋愛要素あり
R18と特殊設定のものはワンクッション置いています。
年齢制限は守ってください。よろしくお願いします。