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ほろた
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2024/02/20
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ほろた
No.15
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短文4
葡萄を引っ搔いた爪は紫に染まった。ぷつりと滲んだ果汁を狐が舐める。それは酸っぱか…
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短文4
葡萄を引っ搔いた爪は紫に染まった。ぷつりと滲んだ果汁を狐が舐める。それは酸っぱかったのか、狐は顔をしかめる。大体のところと出し抜けに言い始めた猫は帳簿を眺めて、使いすぎやないですか?と言う。使っとらんで、と狐は言う。酸っぱかった葡萄を口に含んだ。酸味がきつい。痺れにも似た舌の心地を抜けると美味いかもしれないとも思う。屋敷を管理していた分の遺産は、底をつき始めている。土台親の金ならなくなってしまってもいいかもしれないとも思う。猫が眼鏡をかける。最近小さい文字が見えにくくなっている。狐の文字は几帳面で小さい。びっちりと書き込まれている。几帳面な可笑しさが数字には詰まっている。相場より出費が高いのは人の良さをつけこまれてあらゆるものの値段がふっかけられているからと判断できる。最もメインの出費は本で、狐の趣味による図書館運営がうまくいっていないのが一番の問題だった。屋敷の一角を図書館に改装したものの貸本屋でもないのだし、元より利益が見込めるものではない。出費だけが嵩んでいく。その上、狐は他に働いたり、収入を得るものがない。親の遺産を食い潰しているだけだ。狐が葡萄を食べる。覇気のない顔を猫はレンズ越しに見つめる。どないしますの、と尋ねる。狐はどないすんねやろ、と他人事のように言う。
「葡萄でも作りまっか」
「出来るんか?」
「あんたの本になんぼでも方法が載ってるやろ」
「あー。載ってるのは大抵殺しの方法や」
「探偵が解決しますねんやろ?意味ないやんか」
「殺すだけやったらあかんやろ」
「あきませんか」
「あかんよ、それは」
「そんなら、旦那さんのはええんですか」
狐は目を細めた。覇気のない顔に瞳だけが一瞬ぎらついた。猫は瞳孔を細め、歯を見せて笑った。
「冗談ですわ」
「…………ひとつ頼むわ」
「ええでっしゃろ。借金だけないのが救いですわ」
猫は不慮の事故で亡くなった狐の両親のことを考える。狐は、葡萄を差し出した。最後の一粒。紫の爪。
「いりませんわ」
「食うてや」
「酸っぱい顔してますやん」
「せやから、美味いんや」
「難儀やなあ」
猫は受け取って葡萄を食べた。
「酸っぱ!」
「せやろ」
「どこが美味しいんですか」
「……ま、その内美味くなるわ」
狐はソファに沈み込んだ。猫は帳簿を鞄にし舞い込む。
「そんなら、また連絡しますわ」
このままこの人死にそうやなと猫は思った。狐はなにも興味がないように目を閉じた。ここ一帯に葡萄の木が広がる土地を想像する。その根本に狐は埋まっているのかもしれない。
「甘い葡萄食べたことあります?」
猫は尋ねた。狐はぼんやりと目を開けた。
「知らん」
まだおるんかという顔をする狐を若干憎たらしく思いながら猫はかけたままだった眼鏡を外した。
部屋からでる間際に独り言のように狐が言った。聞こえなくても問題ないと言う風だった。
「食いたいんやったら買うてきたる」
猫は眉をしかめる。もうなにも言うことはないと、背を向ける。酸っぱさが咥内に残っている。舌先が痺れている。毒でも構わなかった。という夢を見ただけだ。という夢を。
2024.1.28
No.15
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葡萄を引っ搔いた爪は紫に染まった。ぷつりと滲んだ果汁を狐が舐める。それは酸っぱかったのか、狐は顔をしかめる。大体のところと出し抜けに言い始めた猫は帳簿を眺めて、使いすぎやないですか?と言う。使っとらんで、と狐は言う。酸っぱかった葡萄を口に含んだ。酸味がきつい。痺れにも似た舌の心地を抜けると美味いかもしれないとも思う。屋敷を管理していた分の遺産は、底をつき始めている。土台親の金ならなくなってしまってもいいかもしれないとも思う。猫が眼鏡をかける。最近小さい文字が見えにくくなっている。狐の文字は几帳面で小さい。びっちりと書き込まれている。几帳面な可笑しさが数字には詰まっている。相場より出費が高いのは人の良さをつけこまれてあらゆるものの値段がふっかけられているからと判断できる。最もメインの出費は本で、狐の趣味による図書館運営がうまくいっていないのが一番の問題だった。屋敷の一角を図書館に改装したものの貸本屋でもないのだし、元より利益が見込めるものではない。出費だけが嵩んでいく。その上、狐は他に働いたり、収入を得るものがない。親の遺産を食い潰しているだけだ。狐が葡萄を食べる。覇気のない顔を猫はレンズ越しに見つめる。どないしますの、と尋ねる。狐はどないすんねやろ、と他人事のように言う。
「葡萄でも作りまっか」
「出来るんか?」
「あんたの本になんぼでも方法が載ってるやろ」
「あー。載ってるのは大抵殺しの方法や」
「探偵が解決しますねんやろ?意味ないやんか」
「殺すだけやったらあかんやろ」
「あきませんか」
「あかんよ、それは」
「そんなら、旦那さんのはええんですか」
狐は目を細めた。覇気のない顔に瞳だけが一瞬ぎらついた。猫は瞳孔を細め、歯を見せて笑った。
「冗談ですわ」
「…………ひとつ頼むわ」
「ええでっしゃろ。借金だけないのが救いですわ」
猫は不慮の事故で亡くなった狐の両親のことを考える。狐は、葡萄を差し出した。最後の一粒。紫の爪。
「いりませんわ」
「食うてや」
「酸っぱい顔してますやん」
「せやから、美味いんや」
「難儀やなあ」
猫は受け取って葡萄を食べた。
「酸っぱ!」
「せやろ」
「どこが美味しいんですか」
「……ま、その内美味くなるわ」
狐はソファに沈み込んだ。猫は帳簿を鞄にし舞い込む。
「そんなら、また連絡しますわ」
このままこの人死にそうやなと猫は思った。狐はなにも興味がないように目を閉じた。ここ一帯に葡萄の木が広がる土地を想像する。その根本に狐は埋まっているのかもしれない。
「甘い葡萄食べたことあります?」
猫は尋ねた。狐はぼんやりと目を開けた。
「知らん」
まだおるんかという顔をする狐を若干憎たらしく思いながら猫はかけたままだった眼鏡を外した。
部屋からでる間際に独り言のように狐が言った。聞こえなくても問題ないと言う風だった。
「食いたいんやったら買うてきたる」
猫は眉をしかめる。もうなにも言うことはないと、背を向ける。酸っぱさが咥内に残っている。舌先が痺れている。毒でも構わなかった。という夢を見ただけだ。という夢を。