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ほろた
No.16
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短文5
自転車のブレーキを握る。オイルが足りていないのか、金切り声を立てて自転車は止まる…
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短編
短文5
自転車のブレーキを握る。オイルが足りていないのか、金切り声を立てて自転車は止まる。眼前に車が走り抜けていく。こちらの蛮行を咎めるごとく鋭い風が顔に当たった。冒険の一歩目として事故に遭おうとして、誰が困るかというと運転手で、それはあんまりよろしくなかった。未知にたどり着くのに、不誠実で乱暴なのはよくはない。現在タイム・トラベルができるとしても、ほんの僅かな過去に戻るだけらしい。宇宙から時間の軸を見据えてこの世の法則が詰まっていると解明に必死な人類は宇宙を過大評価している節があり、宇宙の一部である地球にすら翻弄されているのに、古い付き合いの恋人を捨てて新しい恋に目移りしているように思えることもある。それは感傷だと数学には載るまいが人類の歴史と研鑽を重ねた数学を答えだと見る方が些か感傷じみているとも思う。不定である言葉の定義はグロテスクで、生身の肉体に似ており、異世界に行きたい自分はゆっくりとべダルをこいだ。未知の扉だ冒険だと嘯いて、見かけるものの一切入ったことない地元の古い喫茶店に足を踏み入れて、顔を上げた店主の誰だ?という不審な表情を見てかっと上がる体温と同居することになる。客は客だが客と不審者は大概同じのようなものである。自分は不審者ではないと、客は果たしてどう証明するのか。やっつけの引き笑いでいいですか?と裏返る声に、店主は仕方なしに頷いたように見えた。他の客が来る前に帰ろうと腰かけた椅子は軋んでおり、古ぼけた絵柄の絵画が、昔はやった画家の筆致をしており、いつか見た景色の建物は自分の記憶にないものだ。手作りの布飾りは生き物の形をしており、ミニトイプードルの眼差しはつぶらだ。
「お待たせしました」
コーヒーいれることと飲むことは客をもてなす行動にしかなりえず、そこのプロセスに至る自分は店主から見て客であり、自分から見ると自分の家ではない場所でコーヒーをいれてくれる人は店主である。知らない人だったらどうしよう。実際知らない人だ。テーブルにフレッシュとスティックシュガーが備え付けられており、両方混ぜて飲むとコーヒーだと言う味がした。店主は客こと他人である自分を見るのは止めて、雑誌を開いて読みはじめた。かつて流行った曲をオルゴールでアレンジしたBGMが流れており、どこか夢に見た光景であった。覚えのない景色を確かに覚えており、しかしこの光景はどこかで見たはずである。他と類似性がありすぎる凡庸な風景は自分のリアルであって脳が認識する光景であり、さっき感じた通りすぎる車の風を思い出す。
本当は死んでいたりして。
コーヒーの苦味と砂糖の甘さを感じる。フレッシュの存在はこういう時あまりに薄く、この丸さがそうなのか、それとも視覚的効果なのか、疑ってしまう。数字と言葉が相反するなら音楽は真実に尤も近い振りをする。
「百回目だよ」
軋んだ声がして、扉が開く。発した男は自分を見て、不審者を見つける顔をした。店主の低い声で応じる声がして、カップの中に残っているコーヒーを一気にのみ干して、そそくさと代金を支払う。ふっと店主が微笑んだ。
「また来てよ」
しっかし、本当なのかよ、と店主は続ける。言葉の対象は自分ではなく、自分の前には相棒の自転車がある。百回目だよ。いいや、まだ一回目だ。ペダルを漕ぐ。循環する車は、不規則で、人たちがあまりにも生活しており、煮詰めた果てに異世界は眠っている。おおむね事故とは非日常であり、宇宙に広がるもやの名前は頭から抜け落ちた。
響き渡る子供の絶叫がして、事件性はなく、ただの雄叫びだ。きゃらきゃらと笑う声がして、通りすぎた言葉は外国語で熱心におしゃべりしていた。迎合。ペダルを漕ぐ。自損事故ならまあいいか。それは乱暴な結論で、空きっ腹にコーヒーがたぷたぷと揺れていた。
2024.1.28
No.16
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受け攻め性別不問/男女恋愛要素あり
R18と特殊設定のものはワンクッション置いています。
年齢制限は守ってください。よろしくお願いします。
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自転車のブレーキを握る。オイルが足りていないのか、金切り声を立てて自転車は止まる。眼前に車が走り抜けていく。こちらの蛮行を咎めるごとく鋭い風が顔に当たった。冒険の一歩目として事故に遭おうとして、誰が困るかというと運転手で、それはあんまりよろしくなかった。未知にたどり着くのに、不誠実で乱暴なのはよくはない。現在タイム・トラベルができるとしても、ほんの僅かな過去に戻るだけらしい。宇宙から時間の軸を見据えてこの世の法則が詰まっていると解明に必死な人類は宇宙を過大評価している節があり、宇宙の一部である地球にすら翻弄されているのに、古い付き合いの恋人を捨てて新しい恋に目移りしているように思えることもある。それは感傷だと数学には載るまいが人類の歴史と研鑽を重ねた数学を答えだと見る方が些か感傷じみているとも思う。不定である言葉の定義はグロテスクで、生身の肉体に似ており、異世界に行きたい自分はゆっくりとべダルをこいだ。未知の扉だ冒険だと嘯いて、見かけるものの一切入ったことない地元の古い喫茶店に足を踏み入れて、顔を上げた店主の誰だ?という不審な表情を見てかっと上がる体温と同居することになる。客は客だが客と不審者は大概同じのようなものである。自分は不審者ではないと、客は果たしてどう証明するのか。やっつけの引き笑いでいいですか?と裏返る声に、店主は仕方なしに頷いたように見えた。他の客が来る前に帰ろうと腰かけた椅子は軋んでおり、古ぼけた絵柄の絵画が、昔はやった画家の筆致をしており、いつか見た景色の建物は自分の記憶にないものだ。手作りの布飾りは生き物の形をしており、ミニトイプードルの眼差しはつぶらだ。
「お待たせしました」
コーヒーいれることと飲むことは客をもてなす行動にしかなりえず、そこのプロセスに至る自分は店主から見て客であり、自分から見ると自分の家ではない場所でコーヒーをいれてくれる人は店主である。知らない人だったらどうしよう。実際知らない人だ。テーブルにフレッシュとスティックシュガーが備え付けられており、両方混ぜて飲むとコーヒーだと言う味がした。店主は客こと他人である自分を見るのは止めて、雑誌を開いて読みはじめた。かつて流行った曲をオルゴールでアレンジしたBGMが流れており、どこか夢に見た光景であった。覚えのない景色を確かに覚えており、しかしこの光景はどこかで見たはずである。他と類似性がありすぎる凡庸な風景は自分のリアルであって脳が認識する光景であり、さっき感じた通りすぎる車の風を思い出す。
本当は死んでいたりして。
コーヒーの苦味と砂糖の甘さを感じる。フレッシュの存在はこういう時あまりに薄く、この丸さがそうなのか、それとも視覚的効果なのか、疑ってしまう。数字と言葉が相反するなら音楽は真実に尤も近い振りをする。
「百回目だよ」
軋んだ声がして、扉が開く。発した男は自分を見て、不審者を見つける顔をした。店主の低い声で応じる声がして、カップの中に残っているコーヒーを一気にのみ干して、そそくさと代金を支払う。ふっと店主が微笑んだ。
「また来てよ」
しっかし、本当なのかよ、と店主は続ける。言葉の対象は自分ではなく、自分の前には相棒の自転車がある。百回目だよ。いいや、まだ一回目だ。ペダルを漕ぐ。循環する車は、不規則で、人たちがあまりにも生活しており、煮詰めた果てに異世界は眠っている。おおむね事故とは非日常であり、宇宙に広がるもやの名前は頭から抜け落ちた。
響き渡る子供の絶叫がして、事件性はなく、ただの雄叫びだ。きゃらきゃらと笑う声がして、通りすぎた言葉は外国語で熱心におしゃべりしていた。迎合。ペダルを漕ぐ。自損事故ならまあいいか。それは乱暴な結論で、空きっ腹にコーヒーがたぷたぷと揺れていた。