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No.25

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俺の親が殺したのはある分野の天才だった。なにも勢い余って愛しすぎたから、憎かった…

文章,短編

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短文12

俺の親が殺したのはある分野の天才だった。なにも勢い余って愛しすぎたから、憎かったら、許せなかったから、衝動的に、八つ裂きにしたかった!とかではない。

ただそのある分野の天才をたまたま夜道で車で轢き殺してしまっただけに過ぎない。よくある事故だ、そして決定的な事故だった。親は罪を認めた。自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律における第5条違反。

親は反省していたし、車から見た信号は青だった。ある分野の天才は赤の信号を渡った。情状酌量は認められたが、やはりもとの生活には戻れなかった。ある分野の損失は大きく、嘆きと悲しみは攻撃に転じた。

俺は親戚の家に養子に出され、思いの外ぬくぬくと育った。そんなわけでバウムクーヘンの専門店を始めた。親が出してくれるおやつの中でバウムクーヘンが好きだったからだ。養子に出されて以降も自分で買ってきたバウムクーヘンを一枚一枚ちびちびと剥ぎ取り、食べながら、ある分野の天才の話をよくインターネットで検索していた。ある分野の天才が生きて研究を続けていたなら、世界は今より二十年進歩していたらしい。止まることを恐れたある分野の天才は赤信号を忌避して、そのまま車で轢かれてしまった。ある分野の天才の時間は止まり、俺の親の人生も止まった。

俺はバウムクーヘンを焼いている。大きな年輪になるように生地を巻き付け焼いていく。あんたらの時間は俺が進めてやる。そんなことを思ったような、思わなかったような気がする。大木と見間違うほどのみっちりとしたバウムクーヘンを焼き上げて、ある分野の天才の記念樹にした。それはいくつか小分けして、売られていった。時は進んでいく。俺は信号を見上げる。信号がいつでも見られる場所に店を構えた。いつでもおいで。バウムクーヘンは、幸福の象徴だった。

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受け攻め性別不問/男女恋愛要素あり
R18と特殊設定のものはワンクッション置いています。
年齢制限は守ってください。よろしくお願いします。