短文14あんたは生命線が日本一周くらいあるよと唐揚げ弁当食べながらばあちゃんが言った。そんなにないでしょと笑うとそのくらい長いってことだよ、とばあちゃんも笑った。いいことだよ。自分の手のひらを見つめていると琴子がどうしたのと声をかけてきた。いろんな管で繋がれた琴子は青ざめた白い肌のはかない美少女そのもので、病気ってのはロリコン趣味なのかと場違いに考えた。「琴子、日本一周しない?」「いきなり?」「そう。私の生命線、そのくらいあるんだって」「そんなに?」「そう」「いいよ」「え?」「行こう、日本一周」私たちは病院を抜け出した。このまま世界一周だ!私たちは電車に乗り込んだ。どこまでも行ける気がした。でも二駅目で琴子の具合が悪くなった。周りの大人が気づいてくれて琴子は賢いから連絡先カードを持っていて、そこには担当医の連絡先も書いてあった。職員に付き添われ、救急車を待った私たちはそのまま病院に逆戻りし、私は母親に叩かれた。あんた!琴子ちゃんを殺す気?!本当に琴子が死んだら私を殺す気だったと後に母親は語った。琴子の母親は私の日本一周の話を聞き、疲れたようなどうしようもないような顔で笑った。笑うしかなかったのかもしれない。私は一人で日本一周することにした。琴子の健康を願掛けして回るのだ。そうすれば、生命線の導きで琴子は元気になるかもしれない。私はなにも考えず飛び出して、偶然出会った大人が善良なのと私ぐらい馬鹿だったので、私が日本一周をすることを手伝ってくれた。山を越え野を越え海を越え、蜜柑の木をたどり、牛だらけの村を越え、大きな城がある街を越え、わかめが落ちている港を行き、琴子に葉書を送り続けた。その途中だ。連絡があった。琴子が亡くなった。死んじゃった。私は日本一周なんかしている場合ではなかったのだ。当然だ。もっと琴子のそばにいればよかった。私は杉が整頓されて生い茂る山深くで伐採のチェンソーが唸る最中、どこまでも延びて行く枝の先にある空を見つめながら、真実に気づいてしまった。琴子の死が怖かった。泣きながら歩く私の前に、老人がやってきて、あんたどないかしたんかと言う。私がなにも言わず首を振ると、老人は袋を押し付けた。唐揚げ弁当、食べや。美味しいから元気出るよって。なあ。私の生命線は私の分しかなかった。私は笑い、老人は笑った。しわしわのどこかひんやりした掌が私の手を握る。私はそれを琴子の手のように思い、握り返したのだった。 2024.2.3(Sat) 12:48:00 文章,短編 edit
あんたは生命線が日本一周くらいあるよと唐揚げ弁当食べながらばあちゃんが言った。そんなにないでしょと笑うとそのくらい長いってことだよ、とばあちゃんも笑った。いいことだよ。
自分の手のひらを見つめていると琴子がどうしたのと声をかけてきた。いろんな管で繋がれた琴子は青ざめた白い肌のはかない美少女そのもので、病気ってのはロリコン趣味なのかと場違いに考えた。
「琴子、日本一周しない?」
「いきなり?」
「そう。私の生命線、そのくらいあるんだって」
「そんなに?」
「そう」
「いいよ」
「え?」
「行こう、日本一周」
私たちは病院を抜け出した。このまま世界一周だ!私たちは電車に乗り込んだ。どこまでも行ける気がした。でも二駅目で琴子の具合が悪くなった。周りの大人が気づいてくれて琴子は賢いから連絡先カードを持っていて、そこには担当医の連絡先も書いてあった。職員に付き添われ、救急車を待った私たちはそのまま病院に逆戻りし、私は母親に叩かれた。あんた!琴子ちゃんを殺す気?!本当に琴子が死んだら私を殺す気だったと後に母親は語った。琴子の母親は私の日本一周の話を聞き、疲れたようなどうしようもないような顔で笑った。笑うしかなかったのかもしれない。私は一人で日本一周することにした。琴子の健康を願掛けして回るのだ。そうすれば、生命線の導きで琴子は元気になるかもしれない。私はなにも考えず飛び出して、偶然出会った大人が善良なのと私ぐらい馬鹿だったので、私が日本一周をすることを手伝ってくれた。山を越え野を越え海を越え、蜜柑の木をたどり、牛だらけの村を越え、大きな城がある街を越え、わかめが落ちている港を行き、琴子に葉書を送り続けた。その途中だ。連絡があった。琴子が亡くなった。死んじゃった。
私は日本一周なんかしている場合ではなかったのだ。当然だ。もっと琴子のそばにいればよかった。
私は杉が整頓されて生い茂る山深くで伐採のチェンソーが唸る最中、どこまでも延びて行く枝の先にある空を見つめながら、真実に気づいてしまった。
琴子の死が怖かった。
泣きながら歩く私の前に、老人がやってきて、あんたどないかしたんかと言う。私がなにも言わず首を振ると、老人は袋を押し付けた。
唐揚げ弁当、食べや。
美味しいから元気出るよって。
なあ。
私の生命線は私の分しかなかった。私は笑い、老人は笑った。しわしわのどこかひんやりした掌が私の手を握る。私はそれを琴子の手のように思い、握り返したのだった。