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No.33

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「健康診断完了しました」きびきびと報告しに来たサイドAはその間にあれ放題になった…

文章,短編

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短文16

「健康診断完了しました」

きびきびと報告しに来たサイドAはその間にあれ放題になった部屋を見て、ため息を吐き出した。それを見てやっとわたしは一息をつけた。最近のサイドAはバグが発生したのか、がんばり屋メイド風の性格になっていたから、あれ放題になった部屋を見た時には、ご主人さま、すぐに綺麗に片付けますわね!あたしにお任せください、ご主人様はお茶でも飲んでお待ちくださいね!と言い、淹れてくれたお茶はとても熱くて舌をやけどした。その為、私はメーカーに健康診断と修理を依頼したのだ。結果はこの通り、無事サイドAに帰ってきた。しかしそれは懐かしかった。サイドAは元々はそうだった、彼女はがんばり屋でドジっ子で底抜けに明るかった。わたしはそんな彼女に恋をして、彼女は受け入れてくれた。ただのロボットの彼女はセクサロイドではなかったし、そういう機能もなかったが、わたしたちは毎晩手を繋いで眠った。その内、この国は同性愛が違法になった。彼女はわたしを守るためにバージョンの変更を主張した。わたしは止めるように言ったが彼女は譲らなかったし、とても頑くなだった。

元々、彼女の回路にはバグがあった。メーカーから、不具合があると報告があった製品番号には彼女が含まれていて、その上で変更も受け付けます、とメーカーは申し出ていた。

「どうぞ、あなたの好きなお茶です」

適温の、花とも木とも違う、乾燥させた茶葉の香りは、いつも言葉に迷う。すこしキャラメルにも似た香りの、味は全く甘くないお茶で、豊かな琥珀色を湛えている。彼女が自ら選んだバージョンは、まったく素直じゃないが有能なメイドで、時に皮肉を口にした。熱いお茶は不具合でも、こういうロールプレイを刺激を人たちは好んだ。

「いつも有り難うね」
「これくらい当然です。あなたの部屋を散らかす才能のお陰で今日も私の仕事が捗ります」

お茶請けに出されたクッキーは可愛らしいデディベアの形をしている。わたしの持っているものによく似ている顔をしている。彼女はわたしが食べるのを見て、そっと満足げに微笑んだ。

彼女のかたちは消去されたが、まだ存在している気がする。私は数枚しか写真が入っていないアルバムを開いた。手を繋いで眠っていた頃、大きく轟いた雷の夜、窓際を照らす青白い光に、わたしがはっと目を覚ますと、実際は眠る必要などなかった彼女が、わたしの顔をただ見ていたことを気づいた。その時、古ぼけたカメラを持ち出して、フィルムが終わるまで写真を撮った。記憶を残したかったからだ。現像を外に頼まなければいけなかったから、直接的な写真は避けた。というよりほぼ何も写っていない。部屋の暗さと解像度の低さ、時々の雷光が彼女のシルエットを不意に気まぐれのように写しているだけだ。

「またそのアルバムですか?」
彼女は何か言いたげだ。
「そうだよ。何も写ってないけどね」
わたしはあえてそんなことを口にする。有能なメイドは、小粋に肩を竦めて仕事に戻っていく。
「あなたの写真も撮らないとね」
サイドAは皮肉げな顔をした。
「必要ありませんよ。私はここにいますから」
尋ねる前に彼女は、お茶のお代わりをカップに注ぐ。それがひどく熱いことに、私は舌をやけどしてから気づいたのだった。

info
受け攻め性別不問/男女恋愛要素あり
R18と特殊設定のものはワンクッション置いています。
年齢制限は守ってください。よろしくお願いします。