短文18「思わなかった?」加藤が言う。「アフリカの子供が水を汲みにいく写真。あれみて、大変だなって思ったけど、アフリカのひとって体力があるんだなと思ったのよ」「なにも覚えてないなあ」篠坂は事務作業を進めていく。「でも大人になって、本にかいてあったけど泣いたりしんどすぎて吐いたりする子もいるんだって。それ、読んでやっぱりつらかったんだ、てショックでさ」加藤はシュレッダーをかけてゆく。いるないもの、いるもの、いらないけど、困らないもの。困るものは細切りに細かくなってゆく。キャベツの千切りに似ている。「まあしんどいよね」「しんどいでしょ?」「アンドーナツ、残ってるよ、食べないの?」「甘いじゃん」「甘いけどね」食べなよ、と篠坂は言う。なくならないでしょ。加藤は顔をしかめた。「太るんだってば」「アンドーナツ一個じゃ太らないよ」「篠坂は痩せてるからじゃん」「加藤も痩せてるよ」「どこが」加藤は苛立ったようにシュレッダーに書類を差し込む。異変を知らせる音がした。「最悪、詰まった」「貸してみなよ」篠坂は加藤を退かす。手際よく紙詰まりを直して、ほらと言う。「やる気なくなった」「元からないじゃん」「ないよ!けどさ、嫌って言わないとわかんないのかも。大抵のコトはさ」「アンドーナツ食べなよ」「嫌だって」篠坂は嫌味ったらしくため息を吐き出す。もういいよ、と言ってアンドーナツを食べる。咀嚼音を加藤はシュレッダーの音で潰した。「嫌だな」「ほんと、さあ、手を動かしてよ」「これでいいの?」篠坂は言う。「関係ある?」加藤は黙りこんだ。篠坂は鳥かごの中の鳥みたいだ。「鳥って飼い主を恋人って思ってるんだって」「不倫なのにね」加藤は篠坂を見た。篠坂は事務作業に戻っている。指についた砂糖を舐め、紙を捲る。そういうことじゃないじゃん、と加藤は人知れず呟き、シュレッダーの音でまた潰した。 2024.2.20(Tue) 13:34:12 文章,短編 edit
「思わなかった?」
加藤が言う。
「アフリカの子供が水を汲みにいく写真。あれみて、大変だなって思ったけど、アフリカのひとって体力があるんだなと思ったのよ」
「なにも覚えてないなあ」
篠坂は事務作業を進めていく。
「でも大人になって、本にかいてあったけど泣いたりしんどすぎて吐いたりする子もいるんだって。それ、読んでやっぱりつらかったんだ、てショックでさ」
加藤はシュレッダーをかけてゆく。いるないもの、いるもの、いらないけど、困らないもの。困るものは細切りに細かくなってゆく。キャベツの千切りに似ている。
「まあしんどいよね」
「しんどいでしょ?」
「アンドーナツ、残ってるよ、食べないの?」
「甘いじゃん」
「甘いけどね」
食べなよ、と篠坂は言う。なくならないでしょ。加藤は顔をしかめた。
「太るんだってば」
「アンドーナツ一個じゃ太らないよ」
「篠坂は痩せてるからじゃん」
「加藤も痩せてるよ」
「どこが」
加藤は苛立ったようにシュレッダーに書類を差し込む。異変を知らせる音がした。
「最悪、詰まった」
「貸してみなよ」
篠坂は加藤を退かす。手際よく紙詰まりを直して、ほらと言う。
「やる気なくなった」
「元からないじゃん」
「ないよ!けどさ、嫌って言わないとわかんないのかも。大抵のコトはさ」
「アンドーナツ食べなよ」
「嫌だって」
篠坂は嫌味ったらしくため息を吐き出す。もういいよ、と言ってアンドーナツを食べる。咀嚼音を加藤はシュレッダーの音で潰した。
「嫌だな」
「ほんと、さあ、手を動かしてよ」
「これでいいの?」
篠坂は言う。
「関係ある?」
加藤は黙りこんだ。
篠坂は鳥かごの中の鳥みたいだ。
「鳥って飼い主を恋人って思ってるんだって」
「不倫なのにね」
加藤は篠坂を見た。篠坂は事務作業に戻っている。指についた砂糖を舐め、紙を捲る。そういうことじゃないじゃん、と加藤は人知れず呟き、シュレッダーの音でまた潰した。