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色々やっています

No.26, No.25, No.24, No.23, No.22, No.21, No.207件]

短文13


すべてを投げ捨てて、こんなところに来てしまった。一面の海、潮風のどこかしつこいかんじ。音が広がり、夜に吸い込まれて行く。離れたところにいる陽キャの笑い声が聞こえてきては内心びくついた。しかしここで帰ってしまうわけにはいかない。目を細めて、空を見つめる。オリオン座を探した。星と星は点と点にしか思えずうろ覚えの知識は星座を作りことさえ成し遂げず、歴史と物語はただ点のまま頭上に広がっている。海と空の狭間で人は考えることを少し放棄する、振りをしているだけで実際、考えていることがあった。マグマだまりみたいに溜め込んだ結果、ぶつけてしまった○○(名前は実在上の人物なので匿名にさせていただく)への感情は晴れることなく、がむしゃらに傷つけただけだ。マグマの熱も海に来れば冷えるだろうと軽率な発想も表面だけは冷えてしこりは残っている。剥き出しすぎた感情に○○は戸惑って目を見開いた。○○とおれとの関係は一直線上に上司と部下であり、むしろおれは部下なのであり、しかし年上であって、○○は年下の優しい上司であって、立場が違えば即座セクハラ、パワハラにもなったが、上下関係における部下という点で一見分からなくなった力関係はぶつけてしまった時点でおれが明白に加害者なのである。やっちまった。オリオン座は未だ見えず、スマホを触ると発光したかのように眩しかった。話し合いましょう。いつもの穏やかで冷静な連絡が入っていた。話し合いましょう。とぼとぼと歩き出したおれは、脳内で辞表の書き方を検索する。職を失うより○○を喪うことが痛手だったが、仕方ないことであった。

また連絡が入って、今どこにいるんですか、と言われて、おれは海だよと答える。海です。何故と尋ねる叱責におれは素直にオリオン座を探しているんですと答えた。完全に頭がおかしくなった年上を、○○はあたたかい場所に行ってくださいと誘導しようとする。自殺の可能性を疑われ、コンプライアンス違反の可能性もあったが、オリオン座を探していただけにすぎず、規範を制定する人間もオリオン座のことを視野にいれては論議していないだろう。

帰って休んだら、また連絡します。月よりもぎらつくほどに光るスマホの画面をそっと落として、おれは教養のなさはロマンチシズムにも浸れないことを、潮風を浴びながら思うのだ。何もなくても夜の海は寒いし冬の海は寒かった。おれはなんとなく可笑しくなり、絶対いつか、この感情を俳句にしようと決意するのであった。

文章,短編

短文12

俺の親が殺したのはある分野の天才だった。なにも勢い余って愛しすぎたから、憎かったら、許せなかったから、衝動的に、八つ裂きにしたかった!とかではない。

ただそのある分野の天才をたまたま夜道で車で轢き殺してしまっただけに過ぎない。よくある事故だ、そして決定的な事故だった。親は罪を認めた。自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律における第5条違反。

親は反省していたし、車から見た信号は青だった。ある分野の天才は赤の信号を渡った。情状酌量は認められたが、やはりもとの生活には戻れなかった。ある分野の損失は大きく、嘆きと悲しみは攻撃に転じた。

俺は親戚の家に養子に出され、思いの外ぬくぬくと育った。そんなわけでバウムクーヘンの専門店を始めた。親が出してくれるおやつの中でバウムクーヘンが好きだったからだ。養子に出されて以降も自分で買ってきたバウムクーヘンを一枚一枚ちびちびと剥ぎ取り、食べながら、ある分野の天才の話をよくインターネットで検索していた。ある分野の天才が生きて研究を続けていたなら、世界は今より二十年進歩していたらしい。止まることを恐れたある分野の天才は赤信号を忌避して、そのまま車で轢かれてしまった。ある分野の天才の時間は止まり、俺の親の人生も止まった。

俺はバウムクーヘンを焼いている。大きな年輪になるように生地を巻き付け焼いていく。あんたらの時間は俺が進めてやる。そんなことを思ったような、思わなかったような気がする。大木と見間違うほどのみっちりとしたバウムクーヘンを焼き上げて、ある分野の天才の記念樹にした。それはいくつか小分けして、売られていった。時は進んでいく。俺は信号を見上げる。信号がいつでも見られる場所に店を構えた。いつでもおいで。バウムクーヘンは、幸福の象徴だった。

文章,短編

短文11

あなたはわたしを手に入れたが、わたしはあなたを手に入れることはできなかった。結末としてはそんな終わり方で物語としてはそんな始まり方をする。

レッドカーペットの上を真っ直ぐ歩いても称賛する観客はおらず、困りきったスタッフが曖昧に微笑むだけである。微笑みとはなんとも不確かな言葉であった。
昔から好きだよと囁いてくれていたあの人は、別の相手を選んで結婚したし、それは分かっていたつもりだった。

毛頭自分が誰かと結婚することはないと分かっていたし、誰かを好きに思ったことをわたしはなかったからだ。あの人は届かぬ告白にそのうちに疲れて、他の人を好きになった。道理だった。真実だった。わたしは誰かを好きになることはないと思っていても、誰かに好きでいられることは心地が良かった。

気持ちの良い日向で、風によって動く雲を眺めながら、風が向かう先を空想するような、不確かでのんびりと怠ける猫になったような心持ちだった。二進法で結託された過ちは、これで良かったのだと自分を怒るような囁きと一緒に刻まれていく。わたしは愛されていたのだと実感を得る、赤く染まったカーペットが、栄光の印なら、わたしがあの人を好きだったのだと証明されたようなもので、いや本当はただあの人がわたしが好きだったから、この世界で誰かに好かれることは意味があることだからあなたは立派ですよと承認された結果なのだろうか?
わたしはレッドカーペットに火をつけて右往左往するスタッフを眺めて、けらけらと笑ってしまう。
全部夢だとしても、自分の価値を好きというものに委ねるのはやめてしまおう。あなたはわたしを手に入れた。
わたしのすべてではなくとも。
わたしはあなたを手に入れることはできなかった。きっとしたくなかったからだ。そうすることは、罪悪のように思えて恥のように思えて、炎はめらめらと燃え上がり、すべてを灰にするだろう。
物語の終わりとしてはどうしたい?あの人を奪い取る?それとも別の誰かに好きになってもらう?
右往左往するのはわたしも同じで、レッドカーペットは燃えたはずなのにわたしの眼前に広げられ、囁く。
わたしはそれを月経に極親しい赤だと気づいて、丁寧に笑った。
ゆっくりとレッドカーペットを丸めていく。重たくて難しくて大変だけど、どこまでも長くその道を、丸めて、丸めて、わたしは進んで行く。二進法の歩幅で、恒久的に。その時、観客は一人だけだった。名前のしらない、瞳が小鹿みたいに澄んだ誰かだった。

文章,短編

短文10

拾い上げた花は枯れている。マリーゴールド。鮮やかな黄色だったのだろう、今はくすんでその影もなくぼろぼろになっている。白い息を吐き出す。トラスト・トトが現れてからと言うものの、大気の温度は下がり続けている。そういうデータはあったはだろうかとAlfonsに尋ねる。Alfonsはあります、しかし閲覧不可です。有効なIDを示してくださいと言う、有効なIDとはどんな立場の者なのか。Alfonsは答えない。トラスト・トトが何であるかを答えないように。
一連を支配したデッドブルグは、トラスト・トトによって置き換えられた。ボードゲームのようなものだ。自分がそこに駒としても上がれないだけで。
マリーゴールドを連れ帰った。家のみんなは歓迎してくれた。花瓶に挿し、水を注いだ。マリーゴールドはマリーゴールドだ。花瓶から発生した音楽がゆっくりと流れて行く、何の音?と鴨下が尋ねた、分からないよとマルチネスが応えた。きっとピアノだよとフェルノは言う、みんなの名前はバラバラで、どんな名前をつけても良かった。トラスト・トトがそう命じたからだ。
本当の名前は口に出せなくなった。旧支配制度によって作られた呪縛。ありもしない上下関係を作り、抑圧し、虐げられた者の名前だからだ。手を擦り合わせた。マリーゴールドは、マリーゴールドだ。ロミオ。ジュリエット。そうだったように。物語はずっと組み込まれている。盤上に生きている。トラスト・トト。あなたも物語の一部のはずなのに大気の温度は下がり続けている。いつかすべては凍りつく。そして爆発するに違いない、終わりはそのようにして訪れる。いつも大抵その場合は詭弁に等しい、愚か者がそうする。

Alfonsは解読し、読み込み、反発した。エラーが起きて許可を求める。試行を繰り返す。名前を入力してください。名前を入力してください。IDを証明してください。あなたは誰ですか?Alfonsは繰り返す。もう6212742499回目のことだった。

文章,短編

短文9

十中八九間違いやろと森永は言ったが岡田は準備を続ける、討伐の予定は立っているがそれを実行するのに当番が当たっていた。清め払え誘導する、先導役のラッパ吹きは森永の役目で、岡田はその補佐に当たる。当人にやる気がないのは残念だが、森永には才能がある。努力を積み重ねている岡田よりもそうだった、だが森永はやりたくないと駄々をこねている。
「自分がやったらええやろ」
「なんでや、お前がやれや」
お前の役目やろ、森永の言葉に眉間に皺が出来る。
「ほら持っとけ、生徒手帳。そんで俺の代わりやれ」
「森永の役目やろ」
「やりたいわけやない!」
思いの外切羽詰まった声だった。
「百鬼夜行はその為のもんやろ」
岡田は冷静だ。冷静に努めている。
「やってどないすんねん、しょーもないわ。時代遅れの遺物や」
「大事にせい。お前の生まれ持った才能に感謝して、な」
「生まれるのが間違いや」
一瞬時が冷えた。岡田は周囲を伺う。誰もいなかった。ほっと胸を撫で下ろす。
「もうええ、もうえええて」
「なにがええねん」
岡田は、息を吐いた。
「化けもん、倒さな、しまいやろ」
「俺ら、ただの人間やで」
森永は岡田も含めた。
「ちゃう、お前だけや」
「なんでそんなこと言うん」
「決まっとるからや」
「なんも決まってへんやんか………」
扉が開いた。
「お前らなにしてん。みんな、待っとんで」
担当の教師だ。
分かってます、今行きます、岡田は答えた。教師は頷く。
「生徒手帳は持ったか?」
「持ってます」
「そんならはよ来いや」
教師は森永を一瞥した。森永は目を合わせない。なにかを諦めた教師が出ていく。
「森永」
「っしゃ、やろか」
岡田は頷いた。森永はお喋りを始めた。どうでもいい話だ。岡田は準備を進める。十中八九間違いやろ。本当は岡田もそう思っていた。

文章,短編

短文8

ぺったらぺったら、サンダルの間抜けな音を響かせる。石坂さんはいつもサンダルを履いており、そのぬぼっとした風貌にサンダルの音はマッチしているように思う。人は人が選んだもので出来ている。ぺったらと鳴らして石坂さんが立ち止まる。
「タコさんウィンナーだ」
「いいでしょう」
「いいな」
「あげませんよ」
「まさか、貰うわけには」
タコさんウィンナーですから、と石坂さんは表情の見えぬ顔で言う。タコウィンナーを箸でつまんでみて、食べようかと思ったが視線を感じて止める。座りなさいよ、と隣を叩いてベンチに誘導する。寒風の吹くぱっとしない天気の日でもベンチは結構埋まっている。じっと部屋にこもっているよりかは幾らかマシだった。
「石坂さんって、まあ、いいか」
「どういうことですか?やめてほしい」
「聞くのは失礼だなと思いました」
「名前を呼んでおいて?」
「石坂さん」
「はい」
「呼んでみました。意味のない呼ぶ行為もあります」
「………………屁理屈だなあ」
「タコさんウィンナーを食う者たるや、理論武装ぐらいしますよ」
「屁理屈でしょう」
「サンダル以外持ってるのかなと思ったんですよ」
「あー。…………失礼ですね」
「そうでしょう」
「まあ持ってても関係ないですから」
「持ってないんだ」
「持ってますけど?」
「あげますよ、タコさんウィンナー」
「いらない……………」
侮辱だ、と石坂さんは怒りだした。それを静める特効薬のようにタコさんウィンナーを石坂さんの口元に持っていく。視線の攻防があった。
「侮辱ですよ」
石坂さんがもごもご言う。
「寒いなあ」
一層冷たい風が吹き抜ける。
「サンダルもいいですよ」
「楽でしょうけど」
あなたには必要でしょうと石坂さんは言う。特効薬は未だ見つかっていない。本当にタコさんウィンナーがそうならいいのに。石坂さんは私の肩をぽんと叩いて立ち上がった。また、ぺったらぺったらサンダルの音を響かせて石坂さんが去っていく。私はと言うと空になった弁当を見つめて、まじんなりとも進まぬ研究のことを考えていた。あれはまだ人類がーー……………、

いややめておこう。
これはあなたには関係のない話であった。

文章,短編

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