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色々やっています

No.31, No.30, No.29, No.28, No.27, No.26, No.257件]

短文15

キャベツ畑にコウノトリが来ることは知っているな!と野太い声で念押しされて、それはそうですねと僕は頷く。先輩はキャベツ畑にコウノトリが赤ん坊を運んでくると言われているがそれは間違いだと言う。一瞬僕は身構えた。続いて先輩は、キャベツ畑にはタイムマシーンが埋まっているのだと真面目ったらしく告げた。

「はぁ」
「なんだその気の抜けた返答は」
「赤ん坊もタイムマシーンも間違いでは」
「赤ん坊は間違いだがタイムマシーンは事実だ」
「どうして」
「私の叔父が埋めたからだ」
「間違いですね」
「だから、事実だ」
「先輩また叔父さんに騙されているんですか?」
「またとは何だ!騙されたことなどない!」
「十円玉が繁殖するとかカブトムシは地球外生命体だとか、横断歩道の白い部分を踏んで渡らないと異世界に連れていかれているとか」
「異世界には連れていかれただろう!」
「いやあれはまあ、ノーカウントでしょう」
「何故だ」
「異世界っていうか異空間というか、まあ大体ニア現実だったでしょう」
「何故自分の過ちを認めないのだ」
「僕の?」
「貴君以外に誰がいる」
「先輩の叔父さんですよ」
「叔父は誰にも理解できない天才なのだ。身内の私が信じてやらねばどうする!」
そうやって単純な先輩を翻弄し続ける叔父は僕から見るとろくでなしにしか過ぎない。クズと天才が紙一重かと言われると判断に困る。判断しようにも天才にはお目にかかったことがないからだ。
「キャベツ畑を堀りにいくぞ!」
「農家さんに怒られますよ」
「許可をとったぞ!収穫を手伝えば考えてもいいと言われた」
それは許可でもないし体のいい手伝い要員だ。だがしかし、収穫したてのキャベツは美味いらしい、と先輩は言う。
「それが目的ですか」
「そんなわけなかろう!目的はタイムマシーンだ!」
「先輩はタイムマシーンで何するんですか?」
「そんな重要なものがあるのだから、どこかの研究所に提供して世界の技術の発展を望むべきだろう」
「じゃあ売るんですか?」
「何故?」
僕は先輩を見つめた。
先輩は不思議そうな顔で僕を見つめる。杞憂を抱く。クズの身内に騙されている現状、このままこの人を放り出してしまうと良いように利用されて終わるんじゃないか、先輩はそれにすら気づかずするべきことを果たしたと満足して終わるのではないか。
「分かりました、見つけたら僕がタイムマシーンを破壊します」
「何故?!」
「過ぎたる技術は人を滅ぼすからです」
「う、うむ……?」
「キャベツの収穫頑張りましょうね!」
「う、うむ………」
先輩は首を捻っていたが、やがてまあいいかと納得したものらしい。収穫したてのキャベツは美味しくて、先輩はバリバリ食べていた。当然と言えば当然の話だが、タイムマシーンの影はどこにもなく、その代わりに赤ん坊を見つけることになり、僕はこれで先輩が叔父さんの過ちに気づくかと期待したが、実際それどころではない問題が起きたため、キャベツ畑は今後封印される事態となった。

「誰しも間違いはある。仕方がないことだ」

締め括るように先輩は言う。徹底的に間違っているのはあんたの叔父さんだ。僕の杞憂はまだまだ続きそうだった。

文章,短編

短文14

あんたは生命線が日本一周くらいあるよと唐揚げ弁当食べながらばあちゃんが言った。そんなにないでしょと笑うとそのくらい長いってことだよ、とばあちゃんも笑った。いいことだよ。

自分の手のひらを見つめていると琴子がどうしたのと声をかけてきた。いろんな管で繋がれた琴子は青ざめた白い肌のはかない美少女そのもので、病気ってのはロリコン趣味なのかと場違いに考えた。
「琴子、日本一周しない?」
「いきなり?」
「そう。私の生命線、そのくらいあるんだって」
「そんなに?」
「そう」
「いいよ」
「え?」
「行こう、日本一周」
私たちは病院を抜け出した。このまま世界一周だ!私たちは電車に乗り込んだ。どこまでも行ける気がした。でも二駅目で琴子の具合が悪くなった。周りの大人が気づいてくれて琴子は賢いから連絡先カードを持っていて、そこには担当医の連絡先も書いてあった。職員に付き添われ、救急車を待った私たちはそのまま病院に逆戻りし、私は母親に叩かれた。あんた!琴子ちゃんを殺す気?!本当に琴子が死んだら私を殺す気だったと後に母親は語った。琴子の母親は私の日本一周の話を聞き、疲れたようなどうしようもないような顔で笑った。笑うしかなかったのかもしれない。私は一人で日本一周することにした。琴子の健康を願掛けして回るのだ。そうすれば、生命線の導きで琴子は元気になるかもしれない。私はなにも考えず飛び出して、偶然出会った大人が善良なのと私ぐらい馬鹿だったので、私が日本一周をすることを手伝ってくれた。山を越え野を越え海を越え、蜜柑の木をたどり、牛だらけの村を越え、大きな城がある街を越え、わかめが落ちている港を行き、琴子に葉書を送り続けた。その途中だ。連絡があった。琴子が亡くなった。死んじゃった。

私は日本一周なんかしている場合ではなかったのだ。当然だ。もっと琴子のそばにいればよかった。

私は杉が整頓されて生い茂る山深くで伐採のチェンソーが唸る最中、どこまでも延びて行く枝の先にある空を見つめながら、真実に気づいてしまった。

琴子の死が怖かった。

泣きながら歩く私の前に、老人がやってきて、あんたどないかしたんかと言う。私がなにも言わず首を振ると、老人は袋を押し付けた。

唐揚げ弁当、食べや。
美味しいから元気出るよって。
なあ。

私の生命線は私の分しかなかった。私は笑い、老人は笑った。しわしわのどこかひんやりした掌が私の手を握る。私はそれを琴子の手のように思い、握り返したのだった。

文章,短編

短文13


すべてを投げ捨てて、こんなところに来てしまった。一面の海、潮風のどこかしつこいかんじ。音が広がり、夜に吸い込まれて行く。離れたところにいる陽キャの笑い声が聞こえてきては内心びくついた。しかしここで帰ってしまうわけにはいかない。目を細めて、空を見つめる。オリオン座を探した。星と星は点と点にしか思えずうろ覚えの知識は星座を作りことさえ成し遂げず、歴史と物語はただ点のまま頭上に広がっている。海と空の狭間で人は考えることを少し放棄する、振りをしているだけで実際、考えていることがあった。マグマだまりみたいに溜め込んだ結果、ぶつけてしまった○○(名前は実在上の人物なので匿名にさせていただく)への感情は晴れることなく、がむしゃらに傷つけただけだ。マグマの熱も海に来れば冷えるだろうと軽率な発想も表面だけは冷えてしこりは残っている。剥き出しすぎた感情に○○は戸惑って目を見開いた。○○とおれとの関係は一直線上に上司と部下であり、むしろおれは部下なのであり、しかし年上であって、○○は年下の優しい上司であって、立場が違えば即座セクハラ、パワハラにもなったが、上下関係における部下という点で一見分からなくなった力関係はぶつけてしまった時点でおれが明白に加害者なのである。やっちまった。オリオン座は未だ見えず、スマホを触ると発光したかのように眩しかった。話し合いましょう。いつもの穏やかで冷静な連絡が入っていた。話し合いましょう。とぼとぼと歩き出したおれは、脳内で辞表の書き方を検索する。職を失うより○○を喪うことが痛手だったが、仕方ないことであった。

また連絡が入って、今どこにいるんですか、と言われて、おれは海だよと答える。海です。何故と尋ねる叱責におれは素直にオリオン座を探しているんですと答えた。完全に頭がおかしくなった年上を、○○はあたたかい場所に行ってくださいと誘導しようとする。自殺の可能性を疑われ、コンプライアンス違反の可能性もあったが、オリオン座を探していただけにすぎず、規範を制定する人間もオリオン座のことを視野にいれては論議していないだろう。

帰って休んだら、また連絡します。月よりもぎらつくほどに光るスマホの画面をそっと落として、おれは教養のなさはロマンチシズムにも浸れないことを、潮風を浴びながら思うのだ。何もなくても夜の海は寒いし冬の海は寒かった。おれはなんとなく可笑しくなり、絶対いつか、この感情を俳句にしようと決意するのであった。

文章,短編

短文12

俺の親が殺したのはある分野の天才だった。なにも勢い余って愛しすぎたから、憎かったら、許せなかったから、衝動的に、八つ裂きにしたかった!とかではない。

ただそのある分野の天才をたまたま夜道で車で轢き殺してしまっただけに過ぎない。よくある事故だ、そして決定的な事故だった。親は罪を認めた。自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律における第5条違反。

親は反省していたし、車から見た信号は青だった。ある分野の天才は赤の信号を渡った。情状酌量は認められたが、やはりもとの生活には戻れなかった。ある分野の損失は大きく、嘆きと悲しみは攻撃に転じた。

俺は親戚の家に養子に出され、思いの外ぬくぬくと育った。そんなわけでバウムクーヘンの専門店を始めた。親が出してくれるおやつの中でバウムクーヘンが好きだったからだ。養子に出されて以降も自分で買ってきたバウムクーヘンを一枚一枚ちびちびと剥ぎ取り、食べながら、ある分野の天才の話をよくインターネットで検索していた。ある分野の天才が生きて研究を続けていたなら、世界は今より二十年進歩していたらしい。止まることを恐れたある分野の天才は赤信号を忌避して、そのまま車で轢かれてしまった。ある分野の天才の時間は止まり、俺の親の人生も止まった。

俺はバウムクーヘンを焼いている。大きな年輪になるように生地を巻き付け焼いていく。あんたらの時間は俺が進めてやる。そんなことを思ったような、思わなかったような気がする。大木と見間違うほどのみっちりとしたバウムクーヘンを焼き上げて、ある分野の天才の記念樹にした。それはいくつか小分けして、売られていった。時は進んでいく。俺は信号を見上げる。信号がいつでも見られる場所に店を構えた。いつでもおいで。バウムクーヘンは、幸福の象徴だった。

文章,短編

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