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色々やっています

No.35, No.33, No.31, No.30, No.29, No.28, No.277件]

短文16

「健康診断完了しました」

きびきびと報告しに来たサイドAはその間にあれ放題になった部屋を見て、ため息を吐き出した。それを見てやっとわたしは一息をつけた。最近のサイドAはバグが発生したのか、がんばり屋メイド風の性格になっていたから、あれ放題になった部屋を見た時には、ご主人さま、すぐに綺麗に片付けますわね!あたしにお任せください、ご主人様はお茶でも飲んでお待ちくださいね!と言い、淹れてくれたお茶はとても熱くて舌をやけどした。その為、私はメーカーに健康診断と修理を依頼したのだ。結果はこの通り、無事サイドAに帰ってきた。しかしそれは懐かしかった。サイドAは元々はそうだった、彼女はがんばり屋でドジっ子で底抜けに明るかった。わたしはそんな彼女に恋をして、彼女は受け入れてくれた。ただのロボットの彼女はセクサロイドではなかったし、そういう機能もなかったが、わたしたちは毎晩手を繋いで眠った。その内、この国は同性愛が違法になった。彼女はわたしを守るためにバージョンの変更を主張した。わたしは止めるように言ったが彼女は譲らなかったし、とても頑くなだった。

元々、彼女の回路にはバグがあった。メーカーから、不具合があると報告があった製品番号には彼女が含まれていて、その上で変更も受け付けます、とメーカーは申し出ていた。

「どうぞ、あなたの好きなお茶です」

適温の、花とも木とも違う、乾燥させた茶葉の香りは、いつも言葉に迷う。すこしキャラメルにも似た香りの、味は全く甘くないお茶で、豊かな琥珀色を湛えている。彼女が自ら選んだバージョンは、まったく素直じゃないが有能なメイドで、時に皮肉を口にした。熱いお茶は不具合でも、こういうロールプレイを刺激を人たちは好んだ。

「いつも有り難うね」
「これくらい当然です。あなたの部屋を散らかす才能のお陰で今日も私の仕事が捗ります」

お茶請けに出されたクッキーは可愛らしいデディベアの形をしている。わたしの持っているものによく似ている顔をしている。彼女はわたしが食べるのを見て、そっと満足げに微笑んだ。

彼女のかたちは消去されたが、まだ存在している気がする。私は数枚しか写真が入っていないアルバムを開いた。手を繋いで眠っていた頃、大きく轟いた雷の夜、窓際を照らす青白い光に、わたしがはっと目を覚ますと、実際は眠る必要などなかった彼女が、わたしの顔をただ見ていたことを気づいた。その時、古ぼけたカメラを持ち出して、フィルムが終わるまで写真を撮った。記憶を残したかったからだ。現像を外に頼まなければいけなかったから、直接的な写真は避けた。というよりほぼ何も写っていない。部屋の暗さと解像度の低さ、時々の雷光が彼女のシルエットを不意に気まぐれのように写しているだけだ。

「またそのアルバムですか?」
彼女は何か言いたげだ。
「そうだよ。何も写ってないけどね」
わたしはあえてそんなことを口にする。有能なメイドは、小粋に肩を竦めて仕事に戻っていく。
「あなたの写真も撮らないとね」
サイドAは皮肉げな顔をした。
「必要ありませんよ。私はここにいますから」
尋ねる前に彼女は、お茶のお代わりをカップに注ぐ。それがひどく熱いことに、私は舌をやけどしてから気づいたのだった。

文章,短編

短文15

キャベツ畑にコウノトリが来ることは知っているな!と野太い声で念押しされて、それはそうですねと僕は頷く。先輩はキャベツ畑にコウノトリが赤ん坊を運んでくると言われているがそれは間違いだと言う。一瞬僕は身構えた。続いて先輩は、キャベツ畑にはタイムマシーンが埋まっているのだと真面目ったらしく告げた。

「はぁ」
「なんだその気の抜けた返答は」
「赤ん坊もタイムマシーンも間違いでは」
「赤ん坊は間違いだがタイムマシーンは事実だ」
「どうして」
「私の叔父が埋めたからだ」
「間違いですね」
「だから、事実だ」
「先輩また叔父さんに騙されているんですか?」
「またとは何だ!騙されたことなどない!」
「十円玉が繁殖するとかカブトムシは地球外生命体だとか、横断歩道の白い部分を踏んで渡らないと異世界に連れていかれているとか」
「異世界には連れていかれただろう!」
「いやあれはまあ、ノーカウントでしょう」
「何故だ」
「異世界っていうか異空間というか、まあ大体ニア現実だったでしょう」
「何故自分の過ちを認めないのだ」
「僕の?」
「貴君以外に誰がいる」
「先輩の叔父さんですよ」
「叔父は誰にも理解できない天才なのだ。身内の私が信じてやらねばどうする!」
そうやって単純な先輩を翻弄し続ける叔父は僕から見るとろくでなしにしか過ぎない。クズと天才が紙一重かと言われると判断に困る。判断しようにも天才にはお目にかかったことがないからだ。
「キャベツ畑を堀りにいくぞ!」
「農家さんに怒られますよ」
「許可をとったぞ!収穫を手伝えば考えてもいいと言われた」
それは許可でもないし体のいい手伝い要員だ。だがしかし、収穫したてのキャベツは美味いらしい、と先輩は言う。
「それが目的ですか」
「そんなわけなかろう!目的はタイムマシーンだ!」
「先輩はタイムマシーンで何するんですか?」
「そんな重要なものがあるのだから、どこかの研究所に提供して世界の技術の発展を望むべきだろう」
「じゃあ売るんですか?」
「何故?」
僕は先輩を見つめた。
先輩は不思議そうな顔で僕を見つめる。杞憂を抱く。クズの身内に騙されている現状、このままこの人を放り出してしまうと良いように利用されて終わるんじゃないか、先輩はそれにすら気づかずするべきことを果たしたと満足して終わるのではないか。
「分かりました、見つけたら僕がタイムマシーンを破壊します」
「何故?!」
「過ぎたる技術は人を滅ぼすからです」
「う、うむ……?」
「キャベツの収穫頑張りましょうね!」
「う、うむ………」
先輩は首を捻っていたが、やがてまあいいかと納得したものらしい。収穫したてのキャベツは美味しくて、先輩はバリバリ食べていた。当然と言えば当然の話だが、タイムマシーンの影はどこにもなく、その代わりに赤ん坊を見つけることになり、僕はこれで先輩が叔父さんの過ちに気づくかと期待したが、実際それどころではない問題が起きたため、キャベツ畑は今後封印される事態となった。

「誰しも間違いはある。仕方がないことだ」

締め括るように先輩は言う。徹底的に間違っているのはあんたの叔父さんだ。僕の杞憂はまだまだ続きそうだった。

文章,短編

短文14

あんたは生命線が日本一周くらいあるよと唐揚げ弁当食べながらばあちゃんが言った。そんなにないでしょと笑うとそのくらい長いってことだよ、とばあちゃんも笑った。いいことだよ。

自分の手のひらを見つめていると琴子がどうしたのと声をかけてきた。いろんな管で繋がれた琴子は青ざめた白い肌のはかない美少女そのもので、病気ってのはロリコン趣味なのかと場違いに考えた。
「琴子、日本一周しない?」
「いきなり?」
「そう。私の生命線、そのくらいあるんだって」
「そんなに?」
「そう」
「いいよ」
「え?」
「行こう、日本一周」
私たちは病院を抜け出した。このまま世界一周だ!私たちは電車に乗り込んだ。どこまでも行ける気がした。でも二駅目で琴子の具合が悪くなった。周りの大人が気づいてくれて琴子は賢いから連絡先カードを持っていて、そこには担当医の連絡先も書いてあった。職員に付き添われ、救急車を待った私たちはそのまま病院に逆戻りし、私は母親に叩かれた。あんた!琴子ちゃんを殺す気?!本当に琴子が死んだら私を殺す気だったと後に母親は語った。琴子の母親は私の日本一周の話を聞き、疲れたようなどうしようもないような顔で笑った。笑うしかなかったのかもしれない。私は一人で日本一周することにした。琴子の健康を願掛けして回るのだ。そうすれば、生命線の導きで琴子は元気になるかもしれない。私はなにも考えず飛び出して、偶然出会った大人が善良なのと私ぐらい馬鹿だったので、私が日本一周をすることを手伝ってくれた。山を越え野を越え海を越え、蜜柑の木をたどり、牛だらけの村を越え、大きな城がある街を越え、わかめが落ちている港を行き、琴子に葉書を送り続けた。その途中だ。連絡があった。琴子が亡くなった。死んじゃった。

私は日本一周なんかしている場合ではなかったのだ。当然だ。もっと琴子のそばにいればよかった。

私は杉が整頓されて生い茂る山深くで伐採のチェンソーが唸る最中、どこまでも延びて行く枝の先にある空を見つめながら、真実に気づいてしまった。

琴子の死が怖かった。

泣きながら歩く私の前に、老人がやってきて、あんたどないかしたんかと言う。私がなにも言わず首を振ると、老人は袋を押し付けた。

唐揚げ弁当、食べや。
美味しいから元気出るよって。
なあ。

私の生命線は私の分しかなかった。私は笑い、老人は笑った。しわしわのどこかひんやりした掌が私の手を握る。私はそれを琴子の手のように思い、握り返したのだった。

文章,短編

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