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ひどく暑い日だった。他の寮の手伝いをした後で彼に呼び出されて、急いで向かった。遅…

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#冠特

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#冠特





ひどく暑い日だった。
他の寮の手伝いをした後で彼に呼び出されて、急いで向かった。
遅い、と文句を言われて彼女はもごもごする。汗だくの額を無意識に拭うと、彼はどこか呆れたように目を細める。
「この時期に走り回るなんて馬鹿か、日が沈むまで休んでいろ」
「え、でも……」
「‟でも?”」
反論を許さない声にもごもごと彼女は言葉を呑み込んだ。室内は涼しくて空調も効いている。見た目も涼しい寮だ。涼しいのは本当に空調のおかげなのだろうか?彼女は馬鹿みたいに突っ立ている。彼は彼女を見て、それからソファに座り、煙草に火を点けた。彼は彼女にも座るように促した。彼女は戸惑いながら端に腰を下ろす。彼女は彼が紫煙を吐く姿を見る。
「煙草って美味しいんですか?」
「あ?」
「……よく吸っていらっしゃるので」
「吸ってみればわかるだろ」
「……え?」
彼は咥えていた煙草を差し出した。そもそも未成年の自分が煙草を吸うのは違法のはずだ。むしろ彼もそうである気がする。その上で彼が吸っていた煙草に自分が口をつけるというのもためらわれた。彼は差し出したままだったから、フィルターがじりじりと焼けていく。
「おい」
「……その」
「チッ」
彼は短くなった煙草を深く吸い込み、それをびくびくしながら見ている彼女に紫煙を吹きかけた。
「わっ……ッコホ」
「別に美味いわけじゃない」
「……そうなんですか」
じゃあ、何故、と彼女の顔が言う。
臆病な割に雄弁すぎる瞳だ。彼は答えなかった。
「えっと、煙草を吸うのもいいですけど、ご飯は食べた方が……」
テーブルには食事が手つかずのまま、残っている。
「うるせえな」
「……」
「お前が食べればいいだろうが」
「わ、私が食べても意味ないと思います……」
彼がひと睨みする。
彼女は慌てて目を伏せた。
「……」
「……」
「あの、どんなものなら食べられそうですか……?」
「しつこいぞ」
彼の肌は白かった。
日光にも当たらず、食事もしない。それでも華奢なイメージはない。堂々とした振る舞いがあるからだろうか。彼は煙草を吸う。彼女は、押し黙る。が、ぱっと顔を上げる。
「美味しいですよ、翔くんの料理!」
「……」
「すごく丁寧に作ってあって、味付けも優しいというかほっとするというか。でもクオリティがとても高くて」
「で?」
彼は紫煙を吐いた。すげない彼の態度に彼女の勢いは徐々に落ちていく。
「……おススメをしたくて」
「ヴァガストロムの奴らとうまくやってるようじゃねえか」
「うまく……かは分かりませんが、少しずつ仲良くなれている気はします」
彼女は少しほっとして笑った。
彼はまた彼女の顔に紫煙を吹きかける。
「えぁ、コホッ…!」
「――俺に食べてほしけりゃ、吸ってみろ」
「……っ、え?」
彼は煙草を差し出した。
彼女の瞳が揺らぐ。
ゆっくりとフィルターは焼けていく。
彼女は彼の顔を見た。彼の表情は読めなかった。
迷いに迷った彼女は彼の手元に顔を近づけていく。
「熱……」
「え、あっ」
それでも彼女が迷っていると短くなった煙草で彼の指が焼けた。
それに気づいた彼女の顔が青ざめる。
「冷やさないと、あ、水、えっと」
彼は煙草をもみ消して、彼女の顎を掴む。
彼女が息を吸い込む。
彼は、慇懃に彼女の瞳を見つめるだけだ。
彼女は逃げ場をなくして、追い詰められた子猫のようにぶるぶると震える。
「すみませ、」
彼は言葉の吐息がかかるほど、顔を寄せる。
彼女は思わずぎゅっと目を瞑った。
「俺を見ろ」
「……」
「見ろ」
「…………は、はい」
彼女はそろりと目を開ける。
彼の瞳が彼女を捕らえたが、飽いたように手を離した。
「掃除しとけ。夜になったら起こせ」
「え……で、でも」
「下僕が口答えすんじゃねえ」
「冠氷さん、火傷はしてないですか……?」
「うるせえ」
彼女は困ったような顔で彼を見上げる。彼は、その瞳を閉じたくなった。口とて、塞ぎたくなった。彼は彼女がいるにも関わらず、ソファに横になった。
彼女は彼に足を乗せられて猶更困ったようだった。彼は目を閉じた。足で感じる彼女の身体は頼りなく、柔らかい。
「あの」
「……」
「……冠氷さん?」
彼は身じろぎしなかった。
彼女は浅くため息を吐く。
「どうしよう…………」
小さい声だったが、むろん聞こえた。
彼は、ふっと笑いかけた。
このまま、彼女をこの部屋に閉じ込めてしまいたいような気持ちになったからだ。

外はいまだ眩しい日差しに満ちている。傾きかけた西日がより一層赤々と燃えて、カーテンの縁を彩っている。外と隔絶したこの空間は、音も届かず、彼は彼女の、困惑したままの浅い呼吸にいつまでも耳を澄ましていた。

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#ザガ主

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#ザガ主/R18





大抵の地球のおかずよりも遥かに良いものたちがここにはあり、何故ならここは地獄だからだ。
天使たちの襲撃が今日は休みで、ここの神も休日を作ったのかもしれなかった。案外常識を持ち合わせたピョンがお出かけになられてはいかがですかと言う、ゲヘナはとても素晴らしい街ですよ、と言う。襲撃の後に朽ち果てた建物があっても活気に満ちていて、美しかった。一人で行ってもいいものかと確認する前に、ちょうどいい、とピョンが言った。ザガンがいた。ザガンは私と目を合わせなかった。そこが気に入った。ピョンに一緒に出掛けてくるといい、はい、それがよろしいですよ、と言い、何か忙しそうに出かけて行った。見慣れた赤い丸が、星のように過ぎ去って、無言を決め込むザガンの腕を取った。びくりと驚いて、ザガンは目の端を赤く染めた。

「あなたはどうしてここに?」
「…………」
ザガンはひどく無口で、私は自分の都合よく解釈することにした。
ぴったりとくっつくと熱い皮膚が感じ取れた。シトリーでもなくても鼓動は聞き取れる。
「ゲヘナはいい街だね」
ザガンは頷いた。
「それで、二人きりになれる場所は知っている?」
ザガンは目を丸くした。
私を見て、喉をこくりと鳴らす。
正直で可愛い反応に私は満足した。
「嘘だよ、好きな場所に連れて行って」
ザガンは困ったように眉を下げた。
「どちらがいい?」
ザガンは、顔をそらした。
私は辛抱強く待つことにした。嘘だった。彼の手を握り、彼の腕を触った。
ザガンは首から赤くなって、小さく唸る。
「…………どこがいいのか、分からない」
「酒場があるんだったら宿があるんじゃないかな」
「!」
ここは地獄だったし、彼は悪魔だった
ザガンは私の腕を取ると、真っ直ぐに歩いて行った。私は素直に付き従った。彼が何か他の悪魔に断りを入れ、私は宿の一室に連れてこられる。ザガンの息はすでに荒くて、硬くなって主張していた。
「……キスはしてくれないの?」
ザガンは応じた。
最初は戸惑いがちに、徐々に大胆に。私は受け入れて、ザガンも私を受け入れるころにはお互い裸になっていて、私は彼の均等に鍛えられた美しい身体を目と指で堪能した。唇でも、舌でも。ザガンはベッドにうつ伏せになって、時々唸り、私に許しを請うような目をした。きらきらの犬みたいな、それでいて、あまりにも真っ直ぐだから返って虐めたくなるような目で。
私は彼のものを太ももで挟んだ。
「いれたい?」
「………ああ」
「どうしても?」
「……どうしても」
「どうして?」
「……どうして?」
「言って」
何を、と彼は聞かなかった。
「お前が欲しい」
私は返事をせずに、彼を導いた。
彼はそれだけで震えて、達しそうになった。
好きに動いていい、と言うように私は彼の首を抱き、彼は動き始めた。
動けば動くほどみっちりと質量を増してゆく。
ここは地獄で、地球では中が満ちることはなかった、こんなにも。
彼の髪もとてもいい匂いがして、悪魔はどうしたって魅力的だ。しとどに濡れていく自分も、彼のものも感じて、でも彼は私を壊すわけではなかったし、私も彼に壊されたいわけではなかった。
丁度いい興奮と快楽に、どこか素朴な彼のうっとりとした恍惚した眼差しが気持ちよかった。
「はぁ、はぁ、……気持ちいい?」
「……ああ」
彼はそれに興奮したように、腰の動きを早めていく。乳房を舐めて、先端を吸う。
前にした動きを覚えているようだった。
私の内側も唸っていく。
彼の汗が私に落ちる。
髪を掻き上げて、角を触ると彼は眉をしかめた。
困っているのに、もっと、と強請るようだった。
私は嬉しくなって、彼の角を握る。
彼の動きに合わせてぎゅ、ぎゅ、と動かすと、彼は声を漏らした。
「イキたい?」
「……ああ」
「可愛い」
また彼は困惑して、でもそれをどこか楽しんでるようにして小さく笑った。
私はあとは彼に任せることにして、彼の齎すものを楽しんだ。
美しい男が犬みたいに懐いてくれるのは、心地よかった。

ザガンの余力を残して行為は終わった。甘く痺れて余韻が残っている。私はまだ出来るような気がして、彼の胸元を触った。ザガンは、私の首筋に唇を寄せる。
「今日は終わりだ」
「どうして?」
「お前が疲れているから」
「もっとできるかもしれないでしょう」
「……なら、今度」
今日よりもっとする、とザガンは小さく笑った。
私をあやすように。
「休んでくれ。連れていく」
どこに?
地獄はここだ。
ザガンは私にキスをした。甘い色の眼差しは欲を残していて、そういえばこういうジュースがあった。よく混ぜないと最後に甘い蜜が残ってしまうもの。水を足して飲んでもいいんだけれどそうすると水っぽくなって台無しになってしまう。私は彼の唇を舐めて、彼は、小さく唸った。犬みたいにして。見えない尻尾を振って、私の胸元に頭を寄せた。案外ふわふわとした髪が私の肌をくすぐり、ゆったりとした重みは私を睡眠へ促す。

「また会いたい」

どうしてそんな当然のことを?私は眠気に囚われて、うまく答えられなかったけれど、窓から差し込む光は薄っすらと分かり、それが一層ザガンを美しく見せ、私はゲヘナは素晴らしい街だと、改めて思った。


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「星さん?あの、これは一体」「友達――アベンチュリン――から貰ったの。だから、あ…

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#サン星

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#サン星

「星さん?あの、これは一体」
「友達――アベンチュリン――から貰ったの。だから、あなたにあげる」
「あげると言われましてもこれはまた大金ですよ」
「そうだね。だから、あなたが使って」
「どうしてです?」
「いつも投資話をおじゃんにするじゃない!私はお金を出すと言っているのに」
「あなたは良くてもあなたの保護者達に何を言われるかと思うと僕のリスクが高いんですよ」
「じゃあなんでいつも声をかけてくるの?」
「あなたが簡単に乗るからですよ」
「矛盾?」
「楽しいからいいじゃありませんか」
「まあ、それは……そう。だから、私が投資話を作った」
「だから?」
「だから」
「一から話してください」
「十から話したのに?」
「それが問題なんですよ」
「私、お金貰う。サンポ、そのお金を使う。終わり」
「あなたの話術を指南する本を作ると売れそうですね」
「じゃあ、このお金で作ろう!」
「ゼロから話すのはどうでしょう?」
「回りくどいな。いいから使えと言ってるんだけど」
「正直に言うと恐ろしさを覚えています。わけもわからず他人……いえ、ごほん。親愛なる友人の星さんからお金を使えと言われて。まったく混乱してしまいます。これは罠かなにかでしょうか?」
「シンプルに話してるんだけどな」
「シンプル……というか、マッチを使って火をおこすのではなく、雨を降らせろと言われているような気分なのですが」
「じゃあそれをしよう。このお金で」
「すみません、壊れたカセットテープよりも異常な停止と繰り返しを行わないでください」
「私を失望させないで」
星が言う。
サンポは目を細めた。
「私めに何をさせたいのですか。私めは商人ですから、事は単純なのです。お客様の欲しいモノを買う。お客様の欲しいモノを売る。それだけなのですよ。」
「サンポがこのお金でサンポの欲しいものを買ってきて、私を満足させる。以上」
「僕の欲しいものでどうして星さんが満足されるのですか?」
「サンポの欲しいものが見たいから。」
「おやまあ、……いえちょっと待ってください。一体どうされたのですか?ゴミ箱に脅迫されているんですか?どのあたりの?まさかこの前一緒に穴を掘っていたあれですか?」
「どの話?心当たりが多くて分からない」
「はあ」
サンポがため息を吐いた。
星はてへへと照れたように頭を掻いた。
「じゃあそういうことで」
「待って。待ってください。僕、何かあなたを怒らせるようなことをしましたか?」
「存在がもう………あれは許せなかったな………」
「えぇえ……償いならもうしたじゃないですかぁ、ってどのことですか?心当たりがまるでないのですが……」
「サンポじゃなかったからね。でもサンポの顏してたからそういう時はサンポが悪いよ」
「―――ということは、つまり」
「てへへ」
「八つ当たりじゃないですか?サンドバックの代金ということですかぁ?」
「願いは本当。怒りも本当だよ。いや、正当かな……大体サンポが悪いじゃん……」
「あのー。まったく理不尽さを覚えるのですが、はあ、もう分かりましたよ。ならそういうこととして、お金は預からせていただきます。……僕の欲しいもの、でしたよね?」
「まあ犬のうんこみたいなもんだと思うけどね」
「今ふかーく傷つきましたよ。本当ですからね、ああ、悲しい……良き友、良き仲間、良き同士、こうして時間をかけてお互いを知り合い、深くつながった関係だと言うのに……星さんはまったく僕のことをお分かりになっていないなんて!この不肖サンポ、悲しすぎてもう涙も枯れはててしまいました」
「乙~。じゃあ、楽しみにしてるね」
「あ、ちょっと!」
星は本当にさっさと歩きだして、街灯に喧嘩を売りに行った。街灯の方はまったく気にせず、そびえたっている。むしろその近くにあるポストの方が彼女のことを気にしているようだ。この街は終わりだ。
「……さてと」
本当に大金だった。彼女からして、だが。それをささーっと懐にしまい込み、サンポもまたその場を去ることにした。自分の欲しいものはお金では買えない。大事なものはお金で買えないのだ。まあ、大抵の場合だが。何があったのか、おおよその見当はついているものの、かといって自分の所為ではないことは確かだ。八つ当たりの代金は頂くとして、彼女の願いを叶えないといけない。売られて、買ったのだ。このサンポ、いついかなる時もお客様を失望させるようなことは致しません。決して差し出すのは、犬のうんこなどではないのだ。……………彼女は、結構喜びそうだ。物語はそうやって破綻した。パーン。終わり。

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寝ている。呼び出したのは自分だ、部屋で待っていろと言ったのも自分だ。彼は煙草を手…

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#冠特

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#冠特


寝ている。呼び出したのは自分だ、部屋で待っていろと言ったのも自分だ。
彼は煙草を手に取り、火を点けた。浅く吸い込み溜めてから吐き出す。
ちろりと詰みあがっている書類を見る。見るだけだ。
机に腰を下ろし、人のソファで間抜けに眠りこけている彼女を見る。
煙草を吸う。吐く。二本目に火を点けた。紫煙が漂う。
彼は特に何も考えていなかった。どうでもよかった。
彼女は眠っている。
二本目を吸い終えたら、動くつもりだった。
が。先に腹の音が鳴った。
彼のものではない。
眠りこけている彼女の腹からだ。

グゥウウーー

勢いよく飛び起きた彼女は彼を見て、不思議そうな顔をし、やがて状況を把握し、青ざめた。腹が鳴り続ける。顔を赤くし、冷や汗を流し、困り果てた顔で、彼女は滑稽なほどにうろたえた。

「あ、えっと、あの、これはその、ええと、だから」
「だから?」
「えっ」
「何だ」
「…………すみません………」
絞り出した声で謝罪し、彼女は死刑を待つ囚人のように項垂れた。
腹は鳴っている。
「御託はいい。消えろ」
「はい、あの、本当にすみませ」
「やる」
「…………あ、え?」
「あ?」
「……えっと」

彼女は瞬いた。
彼が放り投げたのはチョコレートの缶だった。

「押し付けられた。お前が全部食え」
「あ、………えっと…………じゃあ、責任持って食べます、ので」
「ああ」
「失礼しました」
「食えって言ったよな?」
彼女は最大級に間抜けな顔をした。
「……それはその。……ここで?」
彼は答えなかった。
彼女は哀れな子ネズミだった。
何かをすがるように視線を彷徨わせ、やがて決心した。
「いただきます…………」
恐る恐ると彼女はチョコレートを一粒口に含んだ。
「……ん、……あ!美味しい!」
「そうかよ」
「美味しいですよ、冠氷さんも食べませんか?」
「いらねえ」
「美味しいですよ」
「お前が全部食えつってんだろ」
「……誰かからの贈り物ですか?」
「知らねえ」
「こんな美味しいチョコレート、私食べたことないです!」
「で?」
「………………すみません。あの、ここで全部食べなきゃだめですか?」
目線だけ向けた。
彼女は臆病に首を竦める。
「………友達に、あげたくて」
美味しいので、ともごもご言った。
大方、二年の同級生にだろう。
「あ」
「え」
「……」
彼は口を開けて見せた。
彼女が固まった。
「早くしろ」
「えっと……失礼します」
彼女はおずおずとチョコレートを一粒、彼に差し出した。
彼は彼女がそれを口に入れるまで傲然と待った。
彼女は彼の意図に気づき、怯える子羊のまま、王の口に含ませた。
彼は彼女の指ごと、チョコレートを食み、溶かした。
「まあまあだな」
「…………は、はい」
「はい?」
「お、美味しいと思います……」
彼は手を振った。
下がれという意味だった。
部屋から出ていけとも言った。
彼女はわたわたと慌て、チョコレートの缶をしっかりと抱いた。
「あの、冠氷さん、有難うございます」
彼は応じなかった。
彼女はそっと出ていく。

入れ替わるようにして、副寮長が訪れた。
彼はソファに横になり、目を瞑った。
何か色々と言っていたがどうでもよかった。

「おや、チョコレートはどうされたんですか」

不意に含み笑いが聞こえる。
わざとらしい言い回しに彼はいつもうんざりしている。

「失せろ」
「また、用意しておきます。ああ、そうだ」

今度は彼女を呼んで、お茶会をしましょう。

戯言が聞こえる。
彼は沈黙を欲した。
まだ何か話している。
うるさい。

彼の、口の中はチョコレートの味がした。
彼女の爪の硬さが歯に残っている。
その時、一瞬、目が合っていた。
彼は捕食者の顔をしていたし、彼女は無垢な生贄だった。


「美味いやつにしろ」


彼はそれきり、何も話さなかった。
副寮長は従順に承諾する。


彼女は、彼の特別だった。

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ずいぶん真面目にあなたは思い悩んだ。戸惑い、躊躇、照れ、恥ずかしさ。愛しさ。忙し…

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#レイ主

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#レイ主


ずいぶん真面目にあなたは思い悩んだ。戸惑い、躊躇、照れ、恥ずかしさ。愛しさ。忙しい仕事の合間にチョコレートのバーを齧りながらあなたは辞書や例文集をいくらでも読み、ラブソングも聞いたし、小刻みの時間でラブストーリーの映画も見た。夢でもそれに思い悩み、起きて真っ白の便せんを目の当たりすると、頭痛がするようだった。誤解がないように言えば、あなたは不本意に嫌々、やっているわけではなかった。寧ろ積極的に意欲的に取り組んでいた、あなたは自分はロマンチストではなく、情緒の欠片もないと思っている節がある。実際の彼女の印象はその逆にも関わらず。自分が成し遂げたものを彼女に直接手渡すことを考えると頭がぐらぐらした、恥、恥ですらなかった。ためらいだったし、恐れだった。もし、――もし、彼女の表情に何も思い浮かばなかったら?あなたは完璧を求め、―――挫折し、ペンを置いた。彼女に手紙を贈りたかった。彼女が何度も貰ったことがある、ラブレターを。あなたは事実に嫉妬したわけではなかった。いやほんのちょっと、実際嫉妬もあったかもしれない。でも、あなたは彼女が思うよりも純粋に彼女のことを愛していたから、その思いを形にしたかった。文章にして彼女に差し出したかった。それを読む、彼女の眼差しや、驚きや、微笑みが見たかった。あなたは眼鏡を置いた。目頭をもみ、ため息を吐いた。

「レイ先生ってば、根詰めすぎじゃない?」
「…………いつから」
あなたは冷静に言った。冷静に。
彼女は楽しそうに笑った。
真向いの椅子に彼女は座っていた。
診察を待つ患者みたいに。
「そんなに悩むなんて誰への手紙なの?レイ先生、まさか論文じゃないだろうし」
「………本当に、診察か」
「え、そう、そうだよ。一体どうしちゃったの?本当に忘れてたの?」
あなたは沈黙した。
彼女は真剣な顔になり、
「一体いつから休んでないの?大丈夫?」
あなたに近づいて、額に手をあてた。熱を計っている。特に変わりがないと知って、医者のようにあなたの頬を触り、あなたの隈を見つける。
「……そんなに大変な手紙だったりするの?何か、私に手伝えることはある?」
あなたは沈黙を選んだが、彼女の瞳は嘘を吐かせなかった。
「お前への手紙だ」
「え?」
「前に話しただろう、手紙を贈ると」
彼女は何回かまばたきしたあと、口を開けた。
「…………」
「何か言ったらどうだ」
「……何か、って。あなたって本当、時々、思いがけないことを言うよね」
「有言実行なんだ」
「それは知ってるけど」
でも、と彼女はあなたの頬を撫でる。
「心配になるよ」
「……そんなに酷い顔をしているか?」
「というより、優秀な医者であるレイ先生が大事な患者の診察の予定を忘れるなんてね」
「……」
「……そんなに私に手紙を書くのは大変だった?」
彼女は責めるというよりおかしそうだった。
あなたは彼女を見つめ、
「お前への、想いを言葉にするのは苦労する」
「そう」
「溢れて、」
彼女が固まった。
「どう言えばいいのか、分からなくなる」
「――そう」
あなたは彼女から視線を外さなかったが、彼女は先に目をそらした。薄っすらと頬が染まっていた。彼女はそれをごまかすみたいに、何も書いていない便せんを手に取った。
「じゃあ、これはそういうことが書いている手紙ってこと?」
「何も書いてないだろう」
「そういうことなんでしょ」
彼女が意地になったように言う。あなたは少し笑った。
「そうだな」
「うん――それで、診察はするの?」
それはありふれた言葉だし、聞きなれた単語だ。
あなたは一瞬揺らいで、時間を確認して、彼女を見る。
あなたと彼女の視線は交差する。
―――が、看護師から呼び出しが入った。
「レイ先生、すみません。緊急の呼び出しです。対応できますか?」
「今行く」
「今行く」
と、彼女が看護師に聞こえないように繰り返した。
「……すまないが、診察の予約を入れ直してくれ」
「はい、レイ先生」
聞きわけのいい患者のふりをして、彼女が頷く。
あなたは見送る姿勢でいる彼女を通り過ぎる間際、彼女の手を握った。
彼女は驚いて、握り返そうとし、その瞬間、あなたは離れた。

それからあなたは自分の職務を全うした。
デスクに戻り、あなたは残された手紙に気づいた。

----------------

親愛なるレイ先生へ

次の診察日は忘れないで!
どれだけ私のことを考えていても、目の前の私をちゃんと見て。

あなたの大事な患者より

-----------------

あなたは幾度となくその文章を読み返して、椅子に深く凭れて息を吐いた。
あなたは今すぐ会いたかった。彼女に。

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「来週からコーヒー農園を見に行ってくるね」と、彼女が言う。アクセを磨いてた手を止…

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#七マリ

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#七マリ



「来週からコーヒー農園を見に行ってくるね」
と、彼女が言う。アクセを磨いてた手を止めて、顔を上げる。
「えっ、どこに」
彼女が名前を挙げたのは外国だったが、ぱっと聞いてどこの国か分からない。彼女がぎゅっと近寄ってきて、身を傾ける。いい匂いがした。スマホを操作して、ここだよ、と言ってもまだドキドキしていたけど、
「遠っ」
「うん、遠いよぉ。飛行機も乗り継ぐみたい」
「えっ、ま、待って。一人で行くのか?」
「ううん、みちるさんとひかりさんと」
二人のお知り合いが持ってる農場なんだって、と言う。ほあー。セレブな世界だ。詳しく根掘り葉掘り聞きたさもあったけど、
「……いつから決まってたの?」
「え?昨日だよ。だから今日実くんに話してるの」
ほら、とメッセージのやり取りを見せてくれる。すごすぎない?そういうやり取りって人に見せられるんだ。
「ふふ、いきなりでびっくりした?」
「そりゃもう……でも、パスポートはあるの?」
「うん、前にお父さんに会いに行ったから」
「あ、聞いた気がする……」
彼女の父親は海外赴任中で、時々会いにいくと聞いたことがある。日本に帰国してもいいけど、せっかくなら、ということで家族団らんも兼ねているらしい。
「…………」
大丈夫だと思う。あの二人が一緒だし、何より彼女のことを大事にしているから。
彼女の手を取る。喫茶店の仕事をしているから、指先は少し荒れていて、爪は短い。指の腹でなぞると、彼女がくすぐったそうに笑った。
「あのさ、カッコ悪いこと言ってもいい?」
「実くんはいつでもかっこいいよ♡」
「あっえっ、アリガト…………」
彼女がニコニコしている。うまく言葉にならなくて、引き出しを開けた。メイクボックスの隣。しまい込んでいた指輪がある。
「行く時、良かったら、これをつけて、いってくれると嬉しいデス……」
「……指輪?」
「ちゃんとしたやつじゃなくて、チープなやつなんだけど……でも、かわいかったから、前に買ってて」
「そうなんだ?いつ?」
「………高校一年の時」
「実くん、おしゃれだもんね」
「違うくて。美奈子……いいな、と思って、買ってたの」
「えっ」
「どう、かな」
「一年の時って、まだ」
「そう、まだ」
おもちゃみたいなオレンジ色のプラスチックのリングに、これもプラスチックのピンクのお花がついていて。その真ん中に、ピンクの濃い石がはめ込んである。石、というか、古いボタンを削ったような気もする。なんとなく、見たとき、彼女の顔が思い浮かんで買ってみたけど、あげるのは思いとどまった。そういう話をしたら、彼女は照れ臭そうに、嬉しそうに微笑んだ。
「有難う」
「……うん、ま、そーいうコトなんで」
「つけてくれる?」
「あ、はい………」
やべえ。ドキドキする。
彼女の手を取って、自分より小さくて、細い指が愛しくって握るようにして撫でて。彼女の瞳が期待を含んだように輝いていて、きらきらしてて。直視できなくなって、うつむきながら左手の薬指にはめた。
「えへへ」
彼女が手を開いて、指輪を見る。
かざしたり、手を傾けたり、いろんな角度から見ている。
高校一年の時ってこんな未来、思い描いていたんだっけ。まだ、秘密がバレて厄介だなあとしか、思ってなかった気もする。
「有難う、実くん。すっごく嬉しい♡」
「……うん。良かった。やっぱ、似合うし、スキ」
「うん、わたしも好き。大好き♡」
彼女の髪を耳にかけて、じっと見ると彼女が察してくれた。キスをして、眼鏡は相変わらず当たるけど、彼女がよく笑う。
「……わたしも何か返したい」
「え、いいよ」
「よくないです」
「あとでモールにでも行く?」
「そう…じゃなくて………」
む、と考え込んでしまった彼女の眉間を触る。
「もう!ちょっと待って」
「ヤダ。待たない」
またキスをすると、バタバタと彼女がかわいく暴れて見せた。
ぎゅーと抱きしめていると、
「あ、そうだ」
彼女が腕から逃れてゆく。
鞄を探って、取り出して見せたのは絆創膏だった。
彼女は真剣な顔をして、
「実くんの、手、借りるね」
「ドーゾ」
左手の指に絆創膏を巻くと、ペンでハートを描いた。
まじまじと見ていると、彼女はもじもじとする。
「えっとね、予約、のつもり……」
「予約?」
「指輪の……。一生分の………」
「一生分………一生分?」
「実くんの、ここにわたしの贈った指輪をずっとつけてもらうの!」
顔を真っ赤にした彼女は言い切った。
「ダメ、……って言ってもダメ、だから……ね!」
「……それって絶対?」
「絶対!」
「絶対。」
「絶対なの」
「それは、そのー……拒否られないじゃん」
「そうだよ」
「約束?」
「約束」
彼女が俺の顔を見た。
「……嫌?」
「なわけないし!!!!!!!!!」
語彙力が死んでいた。実際今も思いつかなくて、もう一度抱きしめた。キスして、それ以上もして、彼女は本当に来週旅立って行って、一週間ぐらい不在だった。喫茶店にはヘルプの人が来ていたけど、物足らなかった。

「nanaくん、それ、怪我したの?」
モデルの仕事中、仲の良いスタッフさんに言われて、咄嗟に口ごもった。外した方がいいのはわかっている。珍しく煮え切れない俺の態度に、努めて言葉を選びながら、事情を話した。

「かあっ」
「えっ」
「いや、えーと、そうだ」

結局、指輪を二つ重ねてつけることになり、気遣いに感謝した。彼女が帰国後、ずっと絆創膏をつけたままだった俺にびっくりして、かぶれちゃうよ、という心配をしてくれたし、仮の予約バージョン2ということで、シンプルな指輪を買いに行くことになるのはまた別の話。

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ぐっと伸びをして、大きく息を吐いた。同じ姿勢で画面を見て作業をしていたものだから…

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#七マリ

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#七マリ


ぐっと伸びをして、大きく息を吐いた。同じ姿勢で画面を見て作業をしていたものだからさすがに疲れた、はっ、と気づいて振り返ると彼女は相変わらず居てくれて、本から目を上げて、休憩にする?と笑ってくれた。疲弊していた心が和らいで、ぎゅんと好きを充電していくのを感じる。
「ごめんな、ずっと作業しててさ」
「実くんは課題の締め切りがあるんでしょ?今日はわたしが会いたかったから無理言ったんだし、気にしないで」
「やっ、俺も会いたかったし、今日は会えて嬉しい……デス」
モデルの仕事と課題の締め切りが重なって、作業時間があんまり取れなかった。日曜日をなんとかフリーにしたものの、暫くの忙しさで二人の時間も取れていなかった。俺の言葉ににっこり嬉しそうに笑った彼女が、うん、わたしも嬉しい♥️と言ってくれて、つい近づいたが彼女はコーヒーを淹れるね、とさっと立ち上がってしまった。伸ばしかけた腕を自分の腕に回して、有り難う、と口ごもる。気恥ずかしさが首筋を上がるのを指で掻いて、彼女の読んでいた本に目線を落とす。資格を解説する本で、彼女はいくつか付箋をつけている。勝手に見るのは駄目な気がして、覗けなかったが気になって、ウズウズしていると、コーヒーのいい香りがした。しかもそれは喫茶アルカードのものだった。キッチンを見に行くと彼女がいたずらを成功したような顔で、「気付いた?」と笑う。
「うん、これ……」
「ふふ。最近お店来れなかったでしょ?店長に頼んで、コーヒー豆を分けてもらったの。店長も実くんの顔見れなくてさみしがってたよ?」
「そっか。俺もさみしがってるって伝えて?」
「伝えるだけでいいの?」
「来週は顔出せるから……」
「なんだか妬けちゃうね」
「へ?」
「店長と実くんって仲良しだね?」
「それって………どっちに妬いてる?」
「ふふ」
コーヒーがフィルターを通して落ちて行く。香りに誘われるように、彼女の後ろから抱きついた。
「今はだめ」
「ダメじゃないもん」
すり寄ると彼女がくすぐったそうに笑った。
「もう、コーヒー淹れてるのに」
「うん………今の俺、甘えん坊さんだから」
「よしよし」
彼女が空いた手で撫でてくれた。ドリップして、後は落ちていくのを待つだけ。いつもの馴染みのコーヒーの香りと彼女が居るのが妙に嬉しかった。ちゅ、と首筋に唇を寄せると、驚いたようにちいさく肩が跳ねた。
「あ、甘えん坊さん?」
「結婚して」
「ふふ」
「え?じゃないんだ……」
飢えるみたいに、好きで好きでたまらなくて、いつも彼女はふわふわとしてて、小さな子猫みたいに、じゃれては好奇心の向く方に行く、相手が自分じゃなくてもおなじなのかも、とひたすら焦れていたあの時、こんな未来が待ってるとは思わなかった。スキ、と言うと彼女は体を向けてきて、わたしも好き❤と言ってくれた。少しの間、抱き締めあって、でも彼女はちゃんとコーヒーを見ていたらしく、俺からするっと離れてマグカップにコーヒーを注いで、飲も、と無敵に笑う。その唇に吸い寄せられるみたいに啄んでキスをする、マグカップを反対側から支えてより深く唇を重ねる。ダメ、と呟いた彼女が上目で俺を見つめるから、実際のところなにが駄目か分からなかったけど、でも実際のところ、駄目なのは分かった。課題が待っている。現実。こんなん生殺しじゃん、と思って悔しさみたいなのが沸いたけど、コーヒー冷めちゃうよ、と言う彼女の言葉で部屋に戻った。

「うー………」
懲りず彼女を後ろから抱えるように座り込んで、コーヒーを飲む。いつもの味だ。荒ぶっていた心が落ち着いて行く。
「美味しい?」
「うん。美味しい。いつもの味だ」
「ほんとに?」
「………ちょっと違うかも?」
「そう!そうなんだよね、難しいんだ」
悩む横顔が真摯で、きれいだった。
「大学行くと思ってた」
つい溢れた言葉に彼女はハッとした顔をして、眉を下げた。
「ふふ」
「っ、ごめん、俺が言うことじゃなかった」
「いいよ、みんなに言われたし」
仲良いだろ?て教師に大学に進学するように勧めるように言われたこともある。彼女は学年一位の成績を持っていて希望する大学に進学できただろう。
「資格、取んの?」
「うん、その内」
彼女には見えないところがあって、拒絶されているわけじゃないけど、誰も入れない場所があるみたいだった。俺の落ち込みを察したように彼女は俺の手を握って、
「実くんみたいに、わたしも夢を持ちたくて」
「なんだって出来るよ」
「ふふ、有り難う」
今は美味しいコーヒーを淹れたいな、と言う。
「グルメな彼氏さんを満足できるようにね❤」
「カワイイ彼女さんの淹れてくれたコーヒーならそれだけで十分なのに」
「ひいきはよくないの!」
「ひいきって。それはさ、するなって言う方がムリじゃない?」
「心を鬼にして!」
「んーーー」
彼女がお願いするときみたいに上目で見詰めてくる。ムリじゃない?
「ごほん。がんばってみるけど」
「うん、わたしもがんばるね!」
つい笑ってしまって、コーヒーを飲み終える。彼女をもう一度抱き締めて、
「うし、充電完了!それじゃ、作業に戻りますかね。時間がきたら言ってくれたら送るし、眠たいなら寝ててもいいし、動画とかも好きにみて」
「うん、有り難う。寛がせていただきます」
「イイエ、なんのお構いもせず」
「………………あのね、実くん」
「ん?」
「我慢してるの、実くんだけじゃないんだからね?」
「…………………………へ?」
一瞬いいように解釈して思考回路が爆発しかけて、いやいやまさか、そんなこと、俺がすけべえさんなだけでしょ!と思って彼女をみたら、顔をそらした彼女の耳がうっすら赤くて、俺は、俺は?顔が熱い。ひぇ、みたいな声が出て、ドッキドキとうるさい鼓動と、じっとり手に汗が滲む感覚がわかる、身体が言うこと聞かないのに、彼女に尋ねる勇気が持てなくて、あ、エアッ、ナニが正解??!ぐるぐる思考が動いて、でも彼女の方はもう見れなかった。互いの沈黙は重くなかったし、何なら甘かった。

俺たちって付き合ってるんだな、て思った。今更なんだけど、俺って世界一幸せ者だ。

アナウンス
※現在プレイを休止しているものあります。
倉庫としておいています。

受け攻め性別不問/男女恋愛要素あり
R18と特殊設定のものはワンクッション置いています。
年齢制限は守ってください。よろしくお願いします。