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No.2
令嬢転生もの~続き
「好きだってッ言われちゃったッ」
好きな人に好きって言われたのにッ!と泣きじゃくるエーデルワイスをアンジェラは慰める。
「お互い好きならいいじゃないのかしら」
「でもッ私はエーデルワイス様じゃないし!」
「だって、マジョちゃったんでしょう?」
「それは、でも、違うから」
アンジェラが、私、実はエーデルワイス様じゃないの、と言われたのは数ヵ月前のことだった。
アンジェラとエーデルワイスは仲が悪かった。性格や好みが不一致というより、エーデルワイスがいつも不機嫌で野犬みたいにいきり立っていたのだ。昔の彼女は主張をはっきりする子ではあったけれどどこかいつも楽しそうな子で、何をしですかわくわくするようなところがあった。だから、本当のところアンジェラとエーデルワイスは仲がよかったのだが、エーデルワイスの母親が病気で亡くなって再婚してから、だんだんエーデルワイスは変わってしまった。仕方ないことだったのかもしれない。けれど本当にそうだったのだろうか?
目の前で泣きじゃくる今のエーデルワイスみたいに、あの頃のエーデルワイスもアンジェラの前で泣いてくれたらよかったのに。
「マリ、ねえ、聞いて」
「う、うん」
「今のあなたがエーデルワイスなのよ。あなたが例え別の世界の、マリという人間であっても」
マリ。それがエーデルワイスと名乗る彼女の本当の名前だ。
マリは、戸惑う。
「私は、でも、エーデルワイス様の人生を奪ってしまったから。それは、許されないことだよ」
「あたしは今のエーデルワイスが好きよ」
マリは顔を伏せた。
本当にそう?と、マリは聞きたがってるようだった。尋ねられてもアンジェラには答えられないかもしれない。
彼女が好きな人の告白を受け入れられないのは当然かもしれない。
自分の好意ですら、アンジェラは不意に判断しかねる。これは、元のエーデルワイスに向けているものなのか、それとも、マリだからか。
マリは思い切り涙をぬぐった。豪快にハンカチで鼻を拭いて、真っ赤な目でにっこりと笑う。
「アンジェラ、有り難う」
手を握って、彼女が言う。
「私の秘密を抱えてくれて。私はエーデルワイス様にふさわしい人生を送ってみせるよ、あなたの良き友人でいられるように」
「……どうして?充分、あなたはあたしの友達だわ」
「有り難う。ーーねえ、課題はもうやった?メヌエット先生の文法が難しくて、わからないところがあるの」
「え?そうね、そこはジオーレの伝説の二部にある言いまわしを参照にしていて……」
あたしはこのままでいいのだろうか。アンジェラは、いつも通りに振る舞ってみせるエーデルワイス………マリをみて思う。
「……マリ。あなただって、好きに恋をしていいはずよ」
「いいの。そもそも、私の婚約者は決められているし」
「ーーそれこそ」
それこそ、エーデルワイスが望んだ人生なの?
アンジェラは、マリを見詰めた。彼女が思うように生きることがエーデルワイスに繋がる気がする。けれど、それは、彼女自身を軽んじることになりやしないだろうか?マリはあくまでもエーデルワイスの付属品なのだろうか。
「大丈夫、安心して。案外悪い人じゃないのよ、ハニーデッカー氏って」
「それは、分からないわよ。あの人、ほとんど喋らないんだもの」
「いい人なの。でも、人の間には言葉が必要なのが分からないみたい」
あからさまにアンジェラは顔をしかめる。そんな男の人、最悪じゃない?
「というか、ブラッドってあなたの婚約者のこと知ってるのかしら?」
「…………………………そういえば、婚約を前提として、と言われた気がする」
「マリって案外、秘密主義よね?」
「そ、そうかな。好きな人の前で婚約者の話はしたくないから………」
「んー。それもそうね。あたしもブラッドに言ってないものね」
「………アンジェラとブラッドさんって仲良しよね?」
「まあね。でも、全然恋とかはないから、安心して。あたしはむしろライオットの方がそういう意味で好きだもの」
「えぇっ!そうだったの?!」
「ライオットはブラッドラブだから、全然相手してくれないんだけれどね」
「いいな、ライオットさんは……ずっとブラッドさんと一緒にいられて」
「何言ってるのよ!マリはそのブラッドに好きって言われてるじゃないの!」
「うう、でも、それはぁ、ダメだから…………」
変なところでマリは頑固だ。こうと決めたらやり抜こうとする強さがあって、それがマリのいいところでもあるが、融通がきかないときがある。
アンジェラは、こっそりとため息を吐いた。再び泣きそうな顔をしながら、エーデルワイスの姿をしたマリという彼女は本とノートにかじりつく。
彼女は、エーデルワイスの日記を読んだことがあるらしい。そうして、彼女は決めたのだ。ーー医者になる、と。
それは、エーデルワイスの夢なんだと彼女は言っている。
じゃあ。それなら。マリの夢はなんなんだろう?あなたはどうしたいの。本当はどうしたいの?
アンジェラには二人が入れ替わって見えないときがある。エーデルワイスという人間とマリという人間と。そのどちらも、アンジェラにとっては、友達だった。本当はずっと、そうだった。でも、忘れてしまっていたことだ。マリというエーデルワイスは、アンジェラが求めていた彼女だった。
「マリ。あたしはあなたの友達よ」
マリが涙で腫らした目元で嬉しそうに笑う。アンジェラは、人知れず胸を痛めた。
2024.Jun.5(Wed) 07:56
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好きな人に好きって言われたのにッ!と泣きじゃくるエーデルワイスをアンジェラは慰める。
「お互い好きならいいじゃないのかしら」
「でもッ私はエーデルワイス様じゃないし!」
「だって、マジョちゃったんでしょう?」
「それは、でも、違うから」
アンジェラが、私、実はエーデルワイス様じゃないの、と言われたのは数ヵ月前のことだった。
アンジェラとエーデルワイスは仲が悪かった。性格や好みが不一致というより、エーデルワイスがいつも不機嫌で野犬みたいにいきり立っていたのだ。昔の彼女は主張をはっきりする子ではあったけれどどこかいつも楽しそうな子で、何をしですかわくわくするようなところがあった。だから、本当のところアンジェラとエーデルワイスは仲がよかったのだが、エーデルワイスの母親が病気で亡くなって再婚してから、だんだんエーデルワイスは変わってしまった。仕方ないことだったのかもしれない。けれど本当にそうだったのだろうか?
目の前で泣きじゃくる今のエーデルワイスみたいに、あの頃のエーデルワイスもアンジェラの前で泣いてくれたらよかったのに。
「マリ、ねえ、聞いて」
「う、うん」
「今のあなたがエーデルワイスなのよ。あなたが例え別の世界の、マリという人間であっても」
マリ。それがエーデルワイスと名乗る彼女の本当の名前だ。
マリは、戸惑う。
「私は、でも、エーデルワイス様の人生を奪ってしまったから。それは、許されないことだよ」
「あたしは今のエーデルワイスが好きよ」
マリは顔を伏せた。
本当にそう?と、マリは聞きたがってるようだった。尋ねられてもアンジェラには答えられないかもしれない。
彼女が好きな人の告白を受け入れられないのは当然かもしれない。
自分の好意ですら、アンジェラは不意に判断しかねる。これは、元のエーデルワイスに向けているものなのか、それとも、マリだからか。
マリは思い切り涙をぬぐった。豪快にハンカチで鼻を拭いて、真っ赤な目でにっこりと笑う。
「アンジェラ、有り難う」
手を握って、彼女が言う。
「私の秘密を抱えてくれて。私はエーデルワイス様にふさわしい人生を送ってみせるよ、あなたの良き友人でいられるように」
「……どうして?充分、あなたはあたしの友達だわ」
「有り難う。ーーねえ、課題はもうやった?メヌエット先生の文法が難しくて、わからないところがあるの」
「え?そうね、そこはジオーレの伝説の二部にある言いまわしを参照にしていて……」
あたしはこのままでいいのだろうか。アンジェラは、いつも通りに振る舞ってみせるエーデルワイス………マリをみて思う。
「……マリ。あなただって、好きに恋をしていいはずよ」
「いいの。そもそも、私の婚約者は決められているし」
「ーーそれこそ」
それこそ、エーデルワイスが望んだ人生なの?
アンジェラは、マリを見詰めた。彼女が思うように生きることがエーデルワイスに繋がる気がする。けれど、それは、彼女自身を軽んじることになりやしないだろうか?マリはあくまでもエーデルワイスの付属品なのだろうか。
「大丈夫、安心して。案外悪い人じゃないのよ、ハニーデッカー氏って」
「それは、分からないわよ。あの人、ほとんど喋らないんだもの」
「いい人なの。でも、人の間には言葉が必要なのが分からないみたい」
あからさまにアンジェラは顔をしかめる。そんな男の人、最悪じゃない?
「というか、ブラッドってあなたの婚約者のこと知ってるのかしら?」
「…………………………そういえば、婚約を前提として、と言われた気がする」
「マリって案外、秘密主義よね?」
「そ、そうかな。好きな人の前で婚約者の話はしたくないから………」
「んー。それもそうね。あたしもブラッドに言ってないものね」
「………アンジェラとブラッドさんって仲良しよね?」
「まあね。でも、全然恋とかはないから、安心して。あたしはむしろライオットの方がそういう意味で好きだもの」
「えぇっ!そうだったの?!」
「ライオットはブラッドラブだから、全然相手してくれないんだけれどね」
「いいな、ライオットさんは……ずっとブラッドさんと一緒にいられて」
「何言ってるのよ!マリはそのブラッドに好きって言われてるじゃないの!」
「うう、でも、それはぁ、ダメだから…………」
変なところでマリは頑固だ。こうと決めたらやり抜こうとする強さがあって、それがマリのいいところでもあるが、融通がきかないときがある。
アンジェラは、こっそりとため息を吐いた。再び泣きそうな顔をしながら、エーデルワイスの姿をしたマリという彼女は本とノートにかじりつく。
彼女は、エーデルワイスの日記を読んだことがあるらしい。そうして、彼女は決めたのだ。ーー医者になる、と。
それは、エーデルワイスの夢なんだと彼女は言っている。
じゃあ。それなら。マリの夢はなんなんだろう?あなたはどうしたいの。本当はどうしたいの?
アンジェラには二人が入れ替わって見えないときがある。エーデルワイスという人間とマリという人間と。そのどちらも、アンジェラにとっては、友達だった。本当はずっと、そうだった。でも、忘れてしまっていたことだ。マリというエーデルワイスは、アンジェラが求めていた彼女だった。
「マリ。あたしはあなたの友達よ」
マリが涙で腫らした目元で嬉しそうに笑う。アンジェラは、人知れず胸を痛めた。