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オタクの雑記
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ほろた
2025/02/3 00:06
亮介と鉱一本編続き②
①
https://upup-bbb.witchserver.jp/blog/teg...
都心部から離れて電車を乗り換え、山間部を走る地域のローカルバスに乗り込む。
カーブの多い道をバスの車体が重そうにしながらも器用に進んでいく。
バスの乗客は二人以外おらず、静かだった。
静寂の中、耐え切れなかったように亮介が言う。
「お前、このネタで何を書く気だよ」
「まだ決めてない、それを決めに行くんだよ」
「見切り発車だな」
「それについてきたお前はなんだよ」
からかうような鉱一に亮介はあからさまに舌打ちをする。
会話はやけに続かず、沈黙が下りる。
鉱一は窓の外を見ている。
亮介も鉱一を見ずに話す。
「――今から行く村の鐘が「死者を呼ぶ鐘」と呼ばれてるらしいな。噂だと何人か行方不明になってるってな」
何か言うかと思った鉱一がふっと眉を寄せた。
「……今、何か聞こえなかったか?」
「は?」
亮介は耳を澄ませる。
だが、バスの鈍いエンジン音が響いているだけだ。
「聞こえた?何の話だよ。お前の頭の中で鳴ってるだけじゃないのか?」
誰も通らないさびれた信号で止まったバスの運転手がつぶやいた。
「……あんたら、鐘の音、聞こえたのかい?」
亮介は一瞬固まった。
「それはどういう意味ですか?」
バスは動き出す。
運転手の視線がバックミラー越しに向けられたのがわかった。
「霧月村に入るとき、たまに聞こえるんだよな。その鐘の音が。……けど、それを聞いた人の中には、なぜか村を出られなくなったって話があってな」
通りのいい声がすっと耳に入っていく。
不穏さを残して。
亮介は背筋を伸ばし、不機嫌そうに言う。
「そういう田舎特有の迷信に俺たちを巻き込む気か?」
尖った声に鉱一は眉を上げる。
そういえば、亮介は幽霊の類が苦手だ。
殺人などの犯罪の話は良くても怪談話は嫌いだ。ただ、それを口に出すことはプライドが許さないのだろう。
黙っていれば背丈の高い冷涼な男は一見怖いものなどなにもなさそうだ。
運転手は気分を害した様子もなく、言う。
「信じるか信じないかはあんたら次第だ。ただ、聞こえるってことは、何かが呼んでるってこったよ」
周囲の景色がバスが進むごとに霧で満ちていく。
一寸先は闇ではなく、白だ。
表情を硬くして唇を引き結んだ亮介は押し黙っている。
鉱一は運転手に話を聞くことにした。
「死者を呼ぶ鐘の話をもっと詳しく教えてくれませんか」
だが、運転手はこれ以上何も語る気はないようだ。
「あんたには関係ない話さ。よそ者が聞いてどうこうなるもんじゃない。出しゃばった真似をしてすまなかった。村に着いたらすぐ忘れるさ」
亮介が鼻を鳴らす。
「ほらな、聞きたがるだけ無駄だってことだ。さっさと着いて取材でもすりゃ、お前の気も済むだろ?」
「俺は知りたいんだ。お前も有名作家なら聞きだすことは得意だろ?その手腕を見せてくれよ」
亮介はわざとらしくため息をついて肩を竦める。
「お前、ほんっとに人使いが荒いな。仕方ねぇ、三流作家の代わりに俺様が一肌脱いでやるか」
亮介は咳払いして、落ち着いた口調で話す。
「なあ、さっきの“鐘の音”の話さ。あんた、俺たちに話しておくべきこと、他にあるんじゃねえの?こんな場所まで来て、ただの噂話を土産に帰るってわけにはいかねぇんだよな。俺たちは作家でね、取材に来てるんだ。大事なことは秘密にする。あんたから聞いたって言ったりしねえ」
「ふん、作家だろうが何だろうが、知る必要のない話は教えねえよ。余計なことに首を突っ込むと、ろくなことにならないからな」
運転手はうんざりしたように応じた。
亮介は顔をしかめて、座席に凭れる。
「ちっ、田舎特有の頑固者かよ……これだから面倒なんだ」
バスはゆっくりと進み続ける。ぼんやりと遠くに灯りが見え始める。村の入り口が近づいているようだ。
「運転手さん。それは俺たちが知っておく必要のある話があるってことですか?」
運転手は少し黙った。
「……まあ、そうだな。霧月村の“鐘の音”を聞いたら、妙なことに巻き込まれるってのは昔からの話だ。あんたたち、深入りはするんじゃないぞ。」
鐘の音。
それがすべてのキッカケなのだろうか。
運転手は黙り込み、亮介も窓の外をじっと睨みつけている。
鉱一は物思いに耽る。
バスが徐々に速度を落とし、外の霧の向こうに村の入口らしき朧げな景色が浮かび上がってくる。木製の朽ちかけた看板には「霧月村」と掠れた文字が読めた。
バスは停まり、二人は降り立った。
霧が立ち込めていて、ぼんやりと薄暗い。
ドアを閉める運転手は、ため息を吐くように言う。
「ようこそ霧月村へ……」
亮介が顔を顰めた。
バスは走り去っていく。
周囲一帯は不気味なほど、静まり返っていた――。
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都心部から離れて電車を乗り換え、山間部を走る地域のローカルバスに乗り込む。
カーブの多い道をバスの車体が重そうにしながらも器用に進んでいく。
バスの乗客は二人以外おらず、静かだった。
静寂の中、耐え切れなかったように亮介が言う。
「お前、このネタで何を書く気だよ」
「まだ決めてない、それを決めに行くんだよ」
「見切り発車だな」
「それについてきたお前はなんだよ」
からかうような鉱一に亮介はあからさまに舌打ちをする。
会話はやけに続かず、沈黙が下りる。
鉱一は窓の外を見ている。
亮介も鉱一を見ずに話す。
「――今から行く村の鐘が「死者を呼ぶ鐘」と呼ばれてるらしいな。噂だと何人か行方不明になってるってな」
何か言うかと思った鉱一がふっと眉を寄せた。
「……今、何か聞こえなかったか?」
「は?」
亮介は耳を澄ませる。
だが、バスの鈍いエンジン音が響いているだけだ。
「聞こえた?何の話だよ。お前の頭の中で鳴ってるだけじゃないのか?」
誰も通らないさびれた信号で止まったバスの運転手がつぶやいた。
「……あんたら、鐘の音、聞こえたのかい?」
亮介は一瞬固まった。
「それはどういう意味ですか?」
バスは動き出す。
運転手の視線がバックミラー越しに向けられたのがわかった。
「霧月村に入るとき、たまに聞こえるんだよな。その鐘の音が。……けど、それを聞いた人の中には、なぜか村を出られなくなったって話があってな」
通りのいい声がすっと耳に入っていく。
不穏さを残して。
亮介は背筋を伸ばし、不機嫌そうに言う。
「そういう田舎特有の迷信に俺たちを巻き込む気か?」
尖った声に鉱一は眉を上げる。
そういえば、亮介は幽霊の類が苦手だ。
殺人などの犯罪の話は良くても怪談話は嫌いだ。ただ、それを口に出すことはプライドが許さないのだろう。
黙っていれば背丈の高い冷涼な男は一見怖いものなどなにもなさそうだ。
運転手は気分を害した様子もなく、言う。
「信じるか信じないかはあんたら次第だ。ただ、聞こえるってことは、何かが呼んでるってこったよ」
周囲の景色がバスが進むごとに霧で満ちていく。
一寸先は闇ではなく、白だ。
表情を硬くして唇を引き結んだ亮介は押し黙っている。
鉱一は運転手に話を聞くことにした。
「死者を呼ぶ鐘の話をもっと詳しく教えてくれませんか」
だが、運転手はこれ以上何も語る気はないようだ。
「あんたには関係ない話さ。よそ者が聞いてどうこうなるもんじゃない。出しゃばった真似をしてすまなかった。村に着いたらすぐ忘れるさ」
亮介が鼻を鳴らす。
「ほらな、聞きたがるだけ無駄だってことだ。さっさと着いて取材でもすりゃ、お前の気も済むだろ?」
「俺は知りたいんだ。お前も有名作家なら聞きだすことは得意だろ?その手腕を見せてくれよ」
亮介はわざとらしくため息をついて肩を竦める。
「お前、ほんっとに人使いが荒いな。仕方ねぇ、三流作家の代わりに俺様が一肌脱いでやるか」
亮介は咳払いして、落ち着いた口調で話す。
「なあ、さっきの“鐘の音”の話さ。あんた、俺たちに話しておくべきこと、他にあるんじゃねえの?こんな場所まで来て、ただの噂話を土産に帰るってわけにはいかねぇんだよな。俺たちは作家でね、取材に来てるんだ。大事なことは秘密にする。あんたから聞いたって言ったりしねえ」
「ふん、作家だろうが何だろうが、知る必要のない話は教えねえよ。余計なことに首を突っ込むと、ろくなことにならないからな」
運転手はうんざりしたように応じた。
亮介は顔をしかめて、座席に凭れる。
「ちっ、田舎特有の頑固者かよ……これだから面倒なんだ」
バスはゆっくりと進み続ける。ぼんやりと遠くに灯りが見え始める。村の入り口が近づいているようだ。
「運転手さん。それは俺たちが知っておく必要のある話があるってことですか?」
運転手は少し黙った。
「……まあ、そうだな。霧月村の“鐘の音”を聞いたら、妙なことに巻き込まれるってのは昔からの話だ。あんたたち、深入りはするんじゃないぞ。」
鐘の音。
それがすべてのキッカケなのだろうか。
運転手は黙り込み、亮介も窓の外をじっと睨みつけている。
鉱一は物思いに耽る。
バスが徐々に速度を落とし、外の霧の向こうに村の入口らしき朧げな景色が浮かび上がってくる。木製の朽ちかけた看板には「霧月村」と掠れた文字が読めた。
バスは停まり、二人は降り立った。
霧が立ち込めていて、ぼんやりと薄暗い。
ドアを閉める運転手は、ため息を吐くように言う。
「ようこそ霧月村へ……」
亮介が顔を顰めた。
バスは走り去っていく。
周囲一帯は不気味なほど、静まり返っていた――。