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「一生のお願いや」「それ何度目の台詞や」「そんなん言うたかてわし死にますやろ」「…
文章,短編
2024.1.30 No.19
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「一生のお願いや」
「それ何度目の台詞や」
「そんなん言うたかてわし死にますやろ」
「死なん」
「死にそうや」
実際死ぬなと狐は考えて、その考えは猫に筒抜けだ。わかっとるやろが、と狐は言う。なんも分かってない、と猫が言う。
「撃たれたんや、お前は」
「それは分かってますわ」
血が流れていく。猫から急速に流れていく。溢れて林檎のような形をしており、林檎みたいな赤さで、林檎のように美しい。
「もうあきませんわ」
「そやろな」
「一生のお願いや」
「それはあかん」
「なんでですの、もう死ぬ言うてますわ」
「面倒やないか」
「わし死にますのやで?!」
「死なんかったらええやろ」
「あかんわ、もう目も見えませんわ」
「さいなら」
「嫌や、死にとうない」
ならず者として生きてきたならやがてはそうなるだろう。最初に足を撃たれた時点で終わりだったのだ。
「悪いことやってきたんや、しゃーない」
「わしやなくてあんたが死ぬべきや」
猫が言った。それで、死んだ。死んでもうたな、と狐は思った。まだ温もりが残っている。一応支えていた手にはべったりと血がついている。洗わなくては。他人の血液ほど汚いものはない。猫は目を瞑っている。狐は離れて歩きだした。林檎が食べたくなっていた。
一生のお願いや。猫はかつて言った。
わしが死ぬときはあんたも死んで。生きるで、と狐は言う。おれは生きる。
死んだらしまいや。
そういや、家に林檎あったな。狐は冷蔵庫に萎びた林檎があることを思い出した。