全年2月1日の投稿[2件]
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短文9
十中八九間違いやろと森永は言ったが岡田は準備を続ける、討伐の予定は立っているがそれを実行するのに当番が当たっていた。清め払え誘導する、先導役のラッパ吹きは森永の役目で、岡田はその補佐に当たる。当人にやる気がないのは残念だが、森永には才能がある。努力を積み重ねている岡田よりもそうだった、だが森永はやりたくないと駄々をこねている。
「自分がやったらええやろ」
「なんでや、お前がやれや」
お前の役目やろ、森永の言葉に眉間に皺が出来る。
「ほら持っとけ、生徒手帳。そんで俺の代わりやれ」
「森永の役目やろ」
「やりたいわけやない!」
思いの外切羽詰まった声だった。
「百鬼夜行はその為のもんやろ」
岡田は冷静だ。冷静に努めている。
「やってどないすんねん、しょーもないわ。時代遅れの遺物や」
「大事にせい。お前の生まれ持った才能に感謝して、な」
「生まれるのが間違いや」
一瞬時が冷えた。岡田は周囲を伺う。誰もいなかった。ほっと胸を撫で下ろす。
「もうええ、もうえええて」
「なにがええねん」
岡田は、息を吐いた。
「化けもん、倒さな、しまいやろ」
「俺ら、ただの人間やで」
森永は岡田も含めた。
「ちゃう、お前だけや」
「なんでそんなこと言うん」
「決まっとるからや」
「なんも決まってへんやんか………」
扉が開いた。
「お前らなにしてん。みんな、待っとんで」
担当の教師だ。
分かってます、今行きます、岡田は答えた。教師は頷く。
「生徒手帳は持ったか?」
「持ってます」
「そんならはよ来いや」
教師は森永を一瞥した。森永は目を合わせない。なにかを諦めた教師が出ていく。
「森永」
「っしゃ、やろか」
岡田は頷いた。森永はお喋りを始めた。どうでもいい話だ。岡田は準備を進める。十中八九間違いやろ。本当は岡田もそう思っていた。
拾い上げた花は枯れている。マリーゴールド。鮮やかな黄色だったのだろう、今はくすんでその影もなくぼろぼろになっている。白い息を吐き出す。トラスト・トトが現れてからと言うものの、大気の温度は下がり続けている。そういうデータはあったはだろうかとAlfonsに尋ねる。Alfonsはあります、しかし閲覧不可です。有効なIDを示してくださいと言う、有効なIDとはどんな立場の者なのか。Alfonsは答えない。トラスト・トトが何であるかを答えないように。
一連を支配したデッドブルグは、トラスト・トトによって置き換えられた。ボードゲームのようなものだ。自分がそこに駒としても上がれないだけで。
マリーゴールドを連れ帰った。家のみんなは歓迎してくれた。花瓶に挿し、水を注いだ。マリーゴールドはマリーゴールドだ。花瓶から発生した音楽がゆっくりと流れて行く、何の音?と鴨下が尋ねた、分からないよとマルチネスが応えた。きっとピアノだよとフェルノは言う、みんなの名前はバラバラで、どんな名前をつけても良かった。トラスト・トトがそう命じたからだ。
本当の名前は口に出せなくなった。旧支配制度によって作られた呪縛。ありもしない上下関係を作り、抑圧し、虐げられた者の名前だからだ。手を擦り合わせた。マリーゴールドは、マリーゴールドだ。ロミオ。ジュリエット。そうだったように。物語はずっと組み込まれている。盤上に生きている。トラスト・トト。あなたも物語の一部のはずなのに大気の温度は下がり続けている。いつかすべては凍りつく。そして爆発するに違いない、終わりはそのようにして訪れる。いつも大抵その場合は詭弁に等しい、愚か者がそうする。
Alfonsは解読し、読み込み、反発した。エラーが起きて許可を求める。試行を繰り返す。名前を入力してください。名前を入力してください。IDを証明してください。あなたは誰ですか?Alfonsは繰り返す。もう6212742499回目のことだった。